探索の日々
前回のおさらい
同い年の精霊魔法使い第五ゲヘナにやってくる。
数日後。
皐月雛乃は第五ゲヘナでの生活に少しずつ慣れ始めていた。
宿は蓮たちと同じ白銀亭。
毎朝早く起きて協会で依頼を確認し、先輩探索者の臨時パーティーへ参加して草原地帯を探索する日々を送っていた。
「今日はホーンディア二体だけか。」
「でも無傷なら十分だ。」
「はい!」
雛乃は笑顔で返事をする。
第四ゲヘナでは十分通用していた実力も、第五ではまだまだ通用するとは言えなかった。
魔物の強さ。
探索者たちの技量。
全てが一段階上だった。
だからこそ、彼女は一つ一つ吸収していた。
◇◇◇
一方その頃。
蓮と恵は再び森林地帯へ足を踏み入れていた。
「今日も奥を目指そう。あまり無理はしないけどね。」
「もちろん。」
《天眼》を展開する。
半径一キロ。
森全体の魔力反応が頭の中へ流れ込んでくる。
アサルトエイプ。
鳥型魔物。
蛇型魔物。
さらに森の奥では熊型と思われる大型魔物の反応もある。
しかし。
「あの反応は今日もない。」
蓮は静かに呟いた。
「やっぱり?」
「ああ。」
以前感じた圧倒的な魔力。
それだけは、どこにも存在しなかった。
「移動しただけならいいけど……。」
恵も森の奥を見る。
「なんとなく嫌な予感がする。」
「俺も。」
そんな会話を交わしながら進んでいく。
すると。
「……止まって。」
蓮が右手を上げた。
「前方100メートル...六体。」
「また猿?」
「いや。」
《天眼》が自動で情報を映し出す。
100メートル範囲であれば見てなくとも《解析》の効果も発揮するようになった。
ーーーーーーーーーー
《フォレストベア》
推定レート:A
特徴:森林地帯に生息する大型熊型魔物。極めて高い耐久力を持ち、爪による近接戦闘を得意とする。縄張り意識が強い。
弱点:眼部、口内。
素材:毛皮、爪、魔石。
ーーーーーーーーーー
「熊か。」
蓮が剣へ手を掛ける。
「六体は多いね。」
「戦う?」
少しだけ考え、
「いや。」
蓮は首を横へ振った。
「今は避けよう。」
「うん。」
《天眼》があるからこそ出来る判断だった。
戦えない相手ではない。
しかし消耗する意味もない。
二人は熊の縄張りを大きく迂回し、そのまま探索を続けた。
◇◇◇
その日の夕方。
第一居住区へ戻った二人は、協会で素材を換金していた。
「神代さん。」
受付職員が声を掛ける。
「今日も綺麗な素材ですね。」
「ありがとうございます。」
精算を終えると、現在の所持金はさらに増えていた。
「一億三千万を超えたね。」
恵が端末を見ながら笑う。
「まだ使う予定もないけど。」
「いざという時のためだな。」
その時。
協会の入口付近が少しだけ騒がしくなる。
「怪我人だ!」
「医療班!」
蓮たちも自然と視線を向けた。
そこには三人組の探索者が戻ってきていた。
全員傷だらけ。
その中には雛乃の姿もあった。
「皐月さん!」
恵が駆け寄る。
「大丈夫?」
「あ……。」
雛乃は少し恥ずかしそうに笑った。
「はい。」
「私は擦り傷だけです。」
蓮は周囲を見る。
仲間らしい男性探索者が苦笑していた。
「草原でホーンディア三頭と戦ってな。」
「途中からもう一群れ来ちまって。」
「戦いながら撤退しただけだ。」
「全員無事なら十分ですよ。」
蓮が言うと、男性は笑った。
「第五じゃ、それが一番大事だからな。」
雛乃も頷く。
「はい。以前だったら無理に倒そうとしていたと思います。でも第五は違いますね。」
その言葉に蓮は少し安心した。
無茶をする性格ではなさそうだ。
◇◇◇
さらに数日後。
森林地帯。
「今日は静かだね。」
恵が周囲を見回す。
「……。」
蓮は返事をしなかった。
「蓮?」
「何か変だ。」
《天眼》が映し出す景色。
昨日までいたはずの魔物が少ない。
アサルトエイプの群れがいない。
鳥型魔物もほとんど飛んでいない。
森全体が静まり返っていた。
その時。
かなり遠くの方で何かの咆哮らしき声が聞こえた。
二人は同時に動きを止める。
「今の。」
「ああ。」
《天眼》を半径1キロまで広げる。
しかし。
何も映らない。
「……まただ。」
蓮は低く呟く。
「範囲外。」
「でも確かに何かいる。」
森のさらに奥。
《天眼》でも届かない場所から聞こえてくる微かな咆哮。
以前感じた巨大な魔物。
その存在を思い出させるには十分だった。
「今日は帰ろう。」
「うん。」
二人は迷わず引き返す。
◇◇◇
帰還後。
白銀亭の食堂。
蓮と恵が夕食を取っていると、
「あっ。」
聞き覚えのある声がした。
振り向くと、雛乃が食堂へ入ってくる。
「こんばんは。」
「こんばんは〜。」
恵が手を振る。
「こっち空いてるよ。」
「ありがとうございます。」
雛乃は嬉しそうに席へ座った。
「今日はどうだった?」
「草原で探索してきました。」
「ホーンディアを一体だけ倒せました。」
嬉しそうに報告する雛乃。
まだ第五では大きな成果ではない。
それでも少しずつ成長していることが伝わってきた。
「蓮さんたちは?」
「森林の真ん中辺りかな。」
「え?」
雛乃が目を丸くする。
「もう森林へ入ってるんですか?」
「うん。」
雛乃は少しだけ尊敬するような表情になる。
「やっぱりすごいですね。」
「私なんて、まだ草原だけで精一杯です。」
蓮は首を横へ振る。
「焦らなくていい。自分に合ったペースで探索すればいいんだ。」
その言葉に雛乃は真剣な表情で頷いた。
「はい。私も少しずつ強くなります。」
食事を終え、それぞれ部屋へ戻っていく。
その夜。
森のさらに奥深く。
誰も踏み込んだことのない未踏区域との境界付近。
ザッ…ザッ…
木々を揺らしながら歩く、その魔物は8メートル程
翠色の瞳がゆっくりと開かれる。
周囲にいた魔物たちは、その気配だけで一斉に逃げ出していく。
王者のような圧倒的存在感。
その魔物は以前感知した魔物では無く、その魔物が移動した原因であった。
しかし、その姿を目撃した者はまだ誰一人いない。
第五ゲヘナの森は、なおも静かにその脅威を隠し続けていた。
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