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オークション

前回のおさらい

黒崎に呼ばれ、未探索エリアの話を持ちかけられる。

数日後。

第五ゲヘナでの生活にも少しずつ慣れ始めた蓮と恵は、東部草原での探索を繰り返していた。

無理はしない。

危険を感じたら即座に引く。

黒崎から言われた言葉を守り続けた結果、大きな怪我を負うこともなく、着実に討伐数だけが増えていく。

グラスウルフ。

ホーンディア。

Aレート相当の魔物とも交戦しながら、《天眼(ヘヴンリーアイ)》による索敵で危険地帯を避け、効率良く魔石や素材を回収していった。

その度に協会へ素材を納品し、報酬を受け取る。

第五ゲヘナでは高レート魔物の素材価値が非常に高い。

ホーンディアの巨大な角は高性能な槍や弓の素材となり、魔石も魔道具の核として重宝されていた。

その結果――。

「……一億円。」

協会本部の精算窓口で、蓮は表示された金額を見つめていた。

『現在所持金 一億二百四十六万円』

「一億超えたね……。」

恵も思わず目を丸くする。

名古屋にいた頃では考えられない金額だった。

受付の女性職員も笑顔で頷く。

「お二人とも討伐数が安定していますからね。しかも素材の状態も非常に綺麗です。査定額も高くなっています。」

蓮は苦笑する。

「《解析(アナライズ)》で素材がわかるので、素材を傷付けずに倒せるだけです。それが難しいんですよ。」

女性職員は感心したように笑った。

「第五ゲヘナでも、毎回ここまで綺麗な素材を持ち帰る探索者は多くありません。」

精算を終えた二人は協会を後にする。

「どうする?」

恵が通帳代わりの魔導端末を見ながら尋ねる。

「これだけあれば、新しい装備も買えるよ?」

蓮も頷いた。

「一度見て回ろう。」

「第五ゲヘナの装備は気になってたし。」


◇◇◇


第一居住区の武具街。

探索者向けの専門店が何十軒も並ぶ区域だ。

巨大な剣。

魔法杖。

特殊合金製の鎧。

魔物素材から作られた防具。

店先には高品質な装備がずらりと並び、多くの探索者で賑わっている。

「すごい……。」

恵は思わず立ち止まった。

ショーケースには、深紅の魔石が埋め込まれたレイピアが飾られている。

『火属性適性向上』

『耐久強化』

そんな説明書きまで添えられていた。

「これ綺麗……。」

「似合いそうだな。」

蓮が笑うと、恵は少し照れ臭そうに笑った。

「でも今のレイピアも気に入ってるし。まだ替えるほどじゃないかな。」

蓮も自分用の剣を見て回る。

魔鋼製。

龍骨製。

魔鉱石を芯材にした特殊剣。

どれも高性能だ。

しかし一本数千万から五千万円を超える値段の物までが並んでいる。

「高いな……。」

「第五ゲヘナじゃ普通らしいよ。」

恵が苦笑する。

「命を預ける装備だからね。」

蓮も納得する。

確かに、この最前線では武器一本の性能が生死を分ける。

多少高くても需要は尽きないのだろう。

その時だった。

近くを歩いていた探索者たちの会話が耳へ入る。

「今日はオークションの日だったな。」

「ああ、今月は目玉が多いらしい。」

「Sレート魔物の素材が出るって聞いたぞ。」

「本物か?」

「協会公認だから間違いない。」

蓮と恵は顔を見合わせた。

「オークション?」

「探索者専用のかな。」

興味を引かれた二人は、そのまま近くの案内所へ向かった。

受付には中年の男性が座っている。

「すみません。」

蓮が声を掛ける。

「探索者オークションって見学できますか?」

男性は二人を見るなり、すぐに頷いた。

「ああ、探索者登録があれば入場できる。」

「落札には保証金が必要だが、見学だけなら自由だ。」

「ありがとうございます。」

「せっかくだし行ってみようか。」

「うん。」


◇◇◇


教えてもらった建物は、協会本部に匹敵するほど巨大だった。

重厚な石造りの建物。

入口には武装した警備員が立ち並び、厳重な警備が敷かれている。

「探索者カードをお願いします。」

カードを提示すると、警備員はすぐに道を開けた。

「ようこそ、探索者オークション会場へ。」

中へ入った瞬間。

「……。」

「すごい。」

二人は思わず立ち止まる。

円形の会場。

数百人は収容できそうな観客席。

中央には巨大な展示台があり、その周囲には強固な結界が幾重にも張られていた。

会場には日本各地から集まった探索者たちが座っている。

見ただけで強者と分かる者も少なくない。

「あれ……。」

恵が小声で呟く。

「あそこ、《黒狼》の桐生さん。」

「あ、本当だ。」

桐生もこちらへ気付き、大きく手を振る。

「おう!」

「お前らも見に来たか!」

「はい。」

「装備を見ていたら気になって。」

桐生は笑った。

「最初はみんなそうだ。」

「ここは第五ゲヘナじゃ有名だからな。」

「買うんですか?」

「いや。」

桐生は肩をすくめる。

「見るだけだ。」

「毎回そうだけど、値段が俺たちでも笑えねぇ。」

その言葉に二人も苦笑した。

やがて照明が少し落とされる。

壇上へ司会者が姿を現した。

「皆様、本日は第五ゲヘナ定例オークションへお越しいただきありがとうございます!」

拍手が広がる。

最初に運ばれてきたのは、美しい青い魔石だった。

「これは……。」

司会者が高らかに告げる。

「Sレート飛行型魔物スカイワイバーンの魔石です!」

会場がざわめく。

開始価格は一千万円。

しかし。

「二千万。」

「三千万。」

「三千五百万。」

次々と値段が跳ね上がっていく。

「……。」

「すごい。」

恵が小さく息を呑む。

魔石一つで豪邸が買えるような金額だ。

続いて運ばれてきたのは、巨大な純白の牙。

「《ホワイトタイガー》の牙!」

さらに、特殊加工された品物や、高位探索者が使用していた魔剣など、普段見ることすらできない品々が次々と出品されていく。

「見てるだけでも面白いね。」

恵が目を輝かせる。

「ああ。」

蓮も静かに頷く。

どの装備も今の自分たちには必要ない。

それでも、この最前線の頂点に立つ探索者たちが何を求め、どんな装備で戦っているのかを知ることは、大きな勉強になった。

「いつか。」

恵がぽつりと呟く。

「私たちも、ここに出るような素材を持ち帰れるようになるかな。」

蓮は展示台に置かれた高級装備を見つめながら微笑む。

「どうだろうね…。」

二人は最後までオークションを見学したものの、結局一度も札を上げることはなかった。

しかし帰り道、蓮の胸には新たな目標が生まれていた。

第五ゲヘナの奥深くには、今日オークションに並んでいた品々をも上回る価値を持つ物が眠っている。

それを自らの力で手に入れられる日が、いつか必ず来る。

そう思いながら、蓮と恵は夕暮れに染まる第一居住区の街並みをゆっくりと歩いていった。

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