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決着

前回のおさらい

ブラックホーンウルフ激闘、全身ボロボロになりながらも決着の時は近づいていた。

ブラックホーンウルフが土煙の中からゆっくりと姿を現す。

右前脚からは血が流れ、それでもなお鋭い眼光は蓮を捉えていた。

「グルルル……」

蓮も剣を構え直す。

腕は痺れ、呼吸は荒い。


何度も《反射(パリィ)》を使ったせいで、体力、精神力が限界に近づいていた。

あと一度使えるかどうか。

それが限界だった。

「だったら……この一撃で決める。」

ブラックホーンウルフも理解しているのだろう。

目の前の人間が、自分を傷つける存在だと。

低く姿勢を落とし、全身の筋肉を収縮させる。

来る。

蓮は静かに息を吐いた。

何千と繰り返した立ち合い。

最後まで相手から目を逸らすな。

相手の動きではなく、「動き出す瞬間」を見ろ。

ブラックホーンウルフの前脚に力が入る。

「今だ!」

地面を蹴る。

ほぼ同時にブラックホーンウルフも飛び出した。

両者の距離が一瞬で消える。

鋭い爪が振り下ろされる。

「《反射》!!」

蓮は渾身の魔力を《魔法盾(アイギス)》へ流し込んだ。

キィィィィィン!!

今までで最も澄んだ音が森へ響く。

盾と爪が触れた瞬間。

蓮は衝撃を真正面から受けるのではなく、斜めへと流し、その力をそのまま返す。

ドォォォン!!

「グォォッ!?」

ブラックホーンウルフの巨体が大きく体勢を崩した。

前脚が滑る。

胸元が完全に無防備になる。

「ここだぁぁぁ!!」

蓮は地面を強く踏み込み、一気に懐へ飛び込んだ。

《魔法盾》を消し、両手で剣持ち全身の力を乗せる。

狙うのは首。

一撃で仕留める。

「はああああぁぁっ!!」

剣閃が走る。

ザシュッ!!

刃は黒い毛並みを切り裂き、そのまま首筋へ深く食い込んだ。

ブラックホーンウルフは数歩よろめき、蓮を見つめる。

赤い瞳から、ゆっくりと力が失われていく。

「……グル。」

最後に小さく鳴くと、その巨体は音を立てて倒れた。

ズゥン――。

静寂。

風が木々を揺らす音だけが響く。

「……勝った。」

蓮は剣を地面へ突き立て、肩で息をする。

全身が限界だった。

左手は震え、右腕は感覚が薄い。

それでも、生きている。

その時。

ブラックホーンウルフの身体が淡い光に包まれ始めた。

光の粒となってゆっくりと消えていく巨体。

その跡には、通常の魔石より一回り大きく、黒い輝きを放つ魔石が一つ残されていた。

「これが……。」

希少魔石。

高ランクの魔物からしか手に入らない貴重な素材だ。

蓮が魔石へ手を伸ばそうとした、その時だった。

「いたぞ!」

森の奥から複数の声が響く。

「ブラックホーンウルフの咆哮はこの辺だった!」

「急げ!」

ガサガサと草木をかき分けながら現れたのは、五人組の探索者パーティーだった。

全員が高品質な装備を身に着け、胸元には探索者協会のAレート認定バッジが光っている。

先頭の大柄な男は周囲を見回し、ブラックホーンウルフの痕跡を見つけると目を見開いた。

「……なっ。」

仲間の女性魔法使いも息を呑む。

「うそ……。」

「討伐、されてる……?」

その視線は、ブラックホーンウルフの魔石を持つ蓮へ向けられた。

血まみれの制服。

あちこちに傷を負いながらも、剣を握って立つ一人の少年。

「おい……。」

大柄な男がゆっくりと口を開く。

「その魔物を……お前が一人で倒したのか?」

蓮は苦笑しながらブラックホーンウルフの魔石を握り締める。

「……なんとか、勝てました。」

その言葉を最後に、張り詰めていた緊張の糸が切れた。

視界がぐらりと揺れる。

「お、おい!」

探索者たちが駆け寄る中、蓮の身体はゆっくりと前へ倒れ込んだ。

意識が闇に沈む直前。

蓮はぼんやりと思う。

(……初めてのゲヘナ、思ったより大変だったな。)


その場にいた誰もが、この少年が後に世界最強の探索者へと駆け上がる存在になるとは、まだ知る由もなかった。

誤字脱字等御座いましたら指摘お願いします!

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