話題の2人#1
前回のおさらい
探索者を助けるために二人で魔物の大群を全て倒す
蓮たちの周囲には、討ち倒された魔物の亡骸が幾重にも横たわっていた。
ホーンディア、グラスウルフ合わせて四十体以上。
血の匂いが風に乗り、草原一帯へ漂っている。
救援部隊の探索者たちは、その光景を改めて見回しながら言葉を失っていた。
「……これ全部、回収するのか。」
桐生が苦笑混じりに頭を掻く。
「さすがに二人だけじゃ運べねぇな。」
蓮も頷いた。
「助かります。」
第五ゲヘナでは、魔物の素材は貴重な資源だ。
角や牙、毛皮、魔石は武器や防具、魔道具の材料となるため、可能な限り持ち帰るのが基本となっている。
しかし、これだけの数ともなれば話は別だった。
「よし!」
桐生が仲間へ声を張る。
「生き残り確認!」
「素材を回収する班と周囲を警戒する班に分かれろ!」
「了解!」
二十人近い探索者たちが一斉に動き始める。
手慣れた動きだった。
大型の収納袋を広げる者。
ホーンディアの角を切り離す者。
グラスウルフから魔石だけを素早く取り出す者。
それぞれが無駄なく作業を進めていく。
「手慣れてる……。」
恵が感心したように呟く。
「毎日のことなんだろうな。」
蓮も周囲を見渡した。
誰一人として無駄な動きをしない。
第五ゲヘナという最前線で生き抜くために培われた技術だった。
その時、一人の探索者がホーンディアを見ながら驚いた声を上げた。
「見ろ。」
「切断面が綺麗すぎる。」
別の探索者も覗き込む。
「一撃か。」
「しかも首を正確に落としてる。」
桐生は蓮の剣を見た。
「全部、お前か?」
「はい。」
「恵が体勢を崩してくれたので。」
当然のように答える蓮へ、周囲から苦笑が漏れる。
「いやいや。」
「それができる奴が少ねぇんだよ。」
別の探索者も笑った。
「ホーンディアは首の骨が硬いからな。」
「普通は何発も斬り込む。」
「一撃って何だよ……。」
恵は自分の事のように少し照れ臭そうに笑う。
「蓮は前よりずっと強くなってるから。」
「いや、一条ちゃんも十分おかしいけどな。」
救援部隊の女性探索者が苦笑する。
「ホーンディアの脚をあんな簡単に壊すレイピアなんて初めて見た。」
恵は頬を赤くした。
「ありがとうございます……。」
和やかな空気が流れる一方で、周囲の警戒だけは怠らない。
蓮の《天眼》は発動したままだ。
「桐生さん。」
「あ?」
「半径500メートル以内に大きな群れはいません。」
「ただ、西から小さい群れが三つ。」
「グラスウルフが合わせて十体くらい。」
桐生が目を丸くする。
「……そこまで分かるのか、熟練度は?」
「《探知》Lv.10…最大です。」
「なっ…本当か??」
「はい。」
「ならお前に周囲の警戒は任せる…神代が周囲の警戒をしてくれる!全員で急いで回収だ!十分以内に撤収するぞ!」
「了解!」
その言葉で作業はさらに加速した。
十分も経たないうちに、回収できる素材は全て収納袋へ収められた。
「よし!帰るぞ!」
隊列を組み、全員で第一居住区への帰路につく。
負傷していた三人も応急処置を受け、自力で歩けるまで回復していた。
帰り道。
桐生が蓮の隣へ並ぶ。
「神代。」
「はい。」
「お前、《探知》の熟練度最大って24時間ずっと使い続けてねえか?」
「ええ。基本的には…。」
「……えぐすぎる。」
思わず笑ってしまう。
「第五じゃ《探知》系の能力が一番かもしれねぇ。」
蓮は少し困ったように笑った。
「なんでも出来るようにならないと強くはなれないので…
その返答に桐生は一瞬だけ目を細めた。
「そういう考え方か。」
恵も隣から話に入ってくる。
「蓮は昔からそうなんです。全部一人でやろうとしますから。」
桐生は豪快に笑った。
「ますます面白ぇな、お前ら。」
◇◇◇
一時間後。
巨大な第一居住区の城壁が見えてきた。
「帰ってきた……。」
負傷していた探索者たちが安堵の息を漏らす。
門番も救援部隊の姿を見るなり門を開いた。
「救援部隊帰還!」
その声で周囲の視線が集まる。
医療班が駆け寄り、負傷者を引き継いでいく。
協会職員も慌ただしく報告を受け始めた。
「被害状況は!」
「死者なし!負傷三名!魔物は全滅!」
「…全滅?」
職員が目を瞬かせる。
「はい。」
桐生が笑う。
「俺たちが着いた時には終わってました。」
「え?」
「この二人がな。」
そう言って蓮と恵を指差す。
一瞬、場が静まり返る。
「……神代さんと一条さんが?」
「二人だけで?」
助けられた探索者が苦笑する。
「俺たちは守られてただけで、戦ったのはほとんどこの二人だ。」
職員たちは思わず顔を見合わせた。
初日でホーンディア四体討伐。
そして今日は、それを遥かに上回る戦果。
若い二人が次々と常識を塗り替えていく。
◇◇◇
その日の夜。
第一居住区の酒場。
「聞いたか?」
「例の愛知の高校生。」
「ああ。」
「救援部隊より先に現場へ向かったらしい」
「しかもホーンディアとグラスウルフ合わせて四十体以上を倒したって。」
「嘘だろ?」
「あの桐生さんが証人だ。」
「あの人が言うなら本当か……。」
別の席でも話題は同じだった。
「《黒狼》が行った時には終わってたらしいぞ。」
「救援部隊が素材回収だけして帰ってきたとか。」
「新人ってレベルじゃねぇな。」
「本当に高校生なのか?」
「地方のAレートなんて甘く見てたわ。」
酒場だけではない。
武器屋でも、協会の待合室でも。
話題は《絆》の二人一色だった。
「あの黄金の盾、見た奴いるか?」
「どんな攻撃でも壊れないらしい。」
「ホーンディアの突進を真正面から止めたって聞いたぞ。」
「しかも《探知》の熟練度最大で魔物の位置まで全部分かるとか。」
噂は尾ひれを付けながら瞬く間に広がっていく。
そして、その頃。
当の本人たちは……。
「今日は疲れたね。」
白銀亭の部屋で恵がベッドへ腰掛ける。
「ああ。」
蓮も窓の外を眺めながら頷いた。
居住区には今日も無数の灯りがともっている。
「でも。」
恵が小さく笑う。
「みんな無事で良かった。」
「うん。」
蓮も静かに笑みを浮かべた。
「あれだけで済んだのは運も良かった。」
《天眼》がなければ、もっと苦戦していたかもしれない。
第五ゲヘナは、まだ入口に過ぎない。
草原の先には森林があり、山脈があり、未踏区域が広がっている。
そして、とんでもない魔力を保有する巨大な魔物。
あれほどの存在が、この世界には当たり前のように生息している。
「まだまだ強くならないとな。」
蓮の呟きに、恵は力強く頷いた。
窓の外では、第五ゲヘナ第一居住区の灯りが夜空を照らしていた。
そしてその夜、日本最前線の探索者たちの間では、新たな噂が静かに広がっていた。
愛知から来た高校生二人組、《絆》。
最前線に、とんでもない高校生が現れた、と。
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