地方からの探索者
前回のおさらい
探索者を助けるために二人は誰よりも早く駆けていく。
二人は同時に地面を蹴った。
第五ゲヘナでの、本格的な戦いが始まる。
◇◇◇
「グォォォォッ!!」
最初に動いたのはホーンディアだった。
六頭が一斉に角へ風の魔力を纏わせる。
次の瞬間、無数の風刃が蓮たちへ襲い掛かった。
「《前方城壁》!」
ゴォォォン!!
黄金の巨大な城壁が地面からせり上がる。
風刃が次々と激突し、激しい火花を散らす。
だが、その障壁には傷一つ付かない。
ヒビすら入らず、全ての風刃を受け止め切った。
「今だ!」
「うん!」
障壁の陰から恵が飛び出す。
《剣魔共鳴》。
炎を纏ったレイピアが一直線にホーンディアの前脚関節を貫いた。
ギャァァァッ!!
巨体が大きく体勢を崩す。
蓮も一気に距離を詰める。
《魔力付与》。
黄金色へ染まった剣が振り下ろされる。
ズバァッ!!
首元へ深々と斬撃が入り、一頭目が轟音と共に倒れ伏した。
「一体!」
しかし、休む間もない。
外側で待機していたグラスウルフ十二体が一斉に飛び出した。
「囲まれる!」
恵が叫ぶ。
狼たちは左右へ散開しながら距離を詰め、完全に包囲しようとしていた。
「任せろ!」
蓮は右腕を突き出した。
「《魔法盾》!」
黄金の盾が目の前出現する。
ガァァァッ!!
三体のグラスウルフが同時に飛び掛かった。
凄まじい衝撃。
だが、黄金の盾は微動だにしない。
傷一つ、ヒビ一つ入らず、三体まとめて受け止める。
「相変わらず……硬い。」
恵が思わず苦笑する。
蓮自身も、この盾だけは絶対の信頼を置いていた。
受け止めた狼へ、蓮が飛び込む。
「はぁぁっ!!」
一閃…二体。
返す刀でさらに一体。
黄金の剣閃が草原を駆け抜ける。
一方、恵も止まらない。
狼の間を舞うように駆け抜け、
首。喉。腹。
急所だけを正確に刺し貫いていく。
「速い……。」
後方で見守る探索者が呆然と呟いた。
「なんだあの二人……。」
「ほとんど会話していないのに連携が取れてる。」
視線をほぼ合わせることもなく、互いの位置を把握し、自然と役割が入れ替わる。
まるで何年も最前線を共にしてきた相棒だった。
ホーンディアが再び突進する。
蓮は真正面から迎え撃つ。
「《反射》!」
ゴォォォン!!
《魔法盾》に激突した巨体が仰け反る。
その一瞬。
「今!」
「任せて!」
恵が側面から飛び込み、《剣魔共鳴》で首を割く。
ズドォン!!
二頭目が倒れた。
残るホーンディア四体。
グラスウルフ九体。
その時だった。
《天眼》が新たな反応を捉える。
「……!」
蓮の表情が変わる。
「恵!」
「どうしたの!?」
「来る!」
「数は!?」
「二十五!」
「もう500メートル切った!」
探索者たちの顔色が変わる。
「そんなに....」
蓮は歯を食いしばる。
魔力と血の匂い。
それらに引き寄せられた新たな群れが、予想以上の速度で迫ってきていた。
「一気に終わらせよう!」
「了解!」
二人は同時に魔力を高めた。
蓮の剣が黄金色に輝き、
恵のレイピアは紅蓮の炎を纏う。
二人は真正面から魔物の群れへ突撃した。
蓮が《魔法盾》でホーンディアの突進を受け止める。
その絶対防御が敵の動きを完全に止める。
その隙へ恵が滑り込み、
《剣魔共鳴》。
炎の一撃が脚関節を貫いた。
体勢を崩した瞬間、
蓮が首元を一刀両断。
さらに返す刃で迫るグラスウルフを薙ぎ払う。
一体、二体、三体…。
恵も炎を纏う刺突を連続で放ち、狼たちを次々と仕留めていく。
わずか五分程度。
戦場には魔物の亡骸だけが残った。
しかし――
ウォォォォォォン!!
遠くから無数の遠吠えが響く。
丘の向こうから、新たな群れが姿を現した。
「来た!」
探索者たちが息を呑む。
グラスウルフ二十体以上。
「こんな数……!」
「逃げ切れない!」
だが蓮は落ち着いていた。
「恵。」
「うん。」
「ここを死守する。」
「了解!」
二人は再び駆け出す。
最初に飛び込んできた複数のグラスウルフに
「《前方城壁》!」
突進を完全に止める。
絶対に壊れない城壁。
その一瞬の停止だけで十分だった。
「はぁぁっ!!」
恵の炎刃。
続けて蓮の斬撃。
撃破。
狼たちが一斉に飛び掛かる。
しかし二人は止まらない。
蓮が盾で動きを限定し、
恵がその隙間を縫って急所を突く。
一体、また一体。
《天眼》によって敵の位置は全て把握済み。
死角など存在しない。
十分後。
最後のグラスウルフが大地へ崩れ落ちた。
静寂。
草原には風だけが吹いている。
探索者たちは呆然と立ち尽くしていた。
「……全部。」
「倒した……。」
その時。
遠くから土煙が上がる。
「いたぞ!」
「救援部隊だ!」
二十名近い探索者たちが駆け寄ってくる。
先頭には桐生の姿もあった。
「無事か!!」
桐生は勢いよく駆け寄るが、
視界へ飛び込んできた光景に思わず足を止めた。
草原一面に転がる魔物の死骸。
ホーンディアが何頭も倒れ、
グラスウルフの群れは壊滅している。
負傷していた三人も無事だった。
「……おい。」
桐生が目を見開く。
「救援……終わってるじゃねぇか。」
後続の探索者たちも言葉を失う。
「嘘だろ……。」
「この数を……。」
「二人だけで?」
助けられた探索者が苦笑しながら肩をすくめた。
「俺たちは守られてただけだ。」
「あとは全部、この二人がやった。」
その言葉に、一同の視線が蓮と恵へ集まる。
息は少し乱れている。
服には返り血が付いている。
だが、大きな傷はない。
桐生はしばらく二人を見つめ、
やがて豪快に笑った。
「ははっ!」
「昨日、は地方のガキだと思ったが……。」
「予想以上だったな。」
周囲の探索者たちも苦笑を浮かべる。
「これじゃ俺たち、本当に救援に来ただけだ。」
「いや、死骸の回収係か?」
その場に小さな笑いが広がる。
しかし、その誰もが理解していた。
愛知から来た高校生二人。
その実力は、もう「期待の新人」という言葉では収まらない。
最前線で戦うAレート探索者たちですら、一目置かざるを得ない存在になり始めていた。
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