城壁の外
前回のおさらい
第五ゲヘナに入り、居住区を見て驚く。
翌朝。
まだ夜明けの余韻が残る第五ゲヘナ第一居住区。
街はすでに活気に満ちていた。
補給部隊の車両が次々と城門へ向かい、探索者たちは武器の点検を終えて出発していく。
宿『白銀亭』の食堂では、朝食を取る探索者たちの声が響いていた。
「今日は外へ出るんだよね。」
焼きたてのパンを口に運びながら恵が言う。
「ああ。」
蓮は地図を広げる。
昨日、協会から受け取った第五ゲヘナ東部地域の簡易地図だ。
もちろん未探索地域までは記されていない。
現在判明している安全地帯や、魔物の出現傾向だけが記載されている。
「まずは門を出てすぐの草原地帯で第五ゲヘナの空気に慣れることを優先しよう。」
「了解。」
恵も真剣な表情で頷いた。
食事を終えると装備を整え、二人は城門へ向かう。
◇◇◇
巨大な城門前。
今日も多くの探索者たちが列を作っていた。
「パーティー名。」
受付の職員が確認する。
「《絆》です。」
「確認しました。」
探索者カードを読み取る端末が光る。
「Aレートパーティー《絆》、出門を許可します。」
重々しい音を立てながら鉄門がゆっくり開いていく。
ギギギギ……
その瞬間。
頬を撫でる風が変わった。
街の空気とは違う。
草の匂い。
土の香り。
「……。」
蓮は無意識に深呼吸する。
「行こう。」
「うん。」
二人は並んで門をくぐった。
ついに。
第五ゲヘナの大地へ足を踏み入れる。
◇◇◇
目の前には、果てしない草原が広がっていた。
見渡す限り緑。
風が吹くたび、腰ほどもある草が波のように揺れる。
遠くには巨大な森林。
さらにその向こうには雪を被った山脈が霞んで見えていた。
空には青空が広がり、巨大な鳥が悠々と旋回している。
「……本当に異世界みたい。」
恵が思わず呟く。
第四ゲヘナまでは閉鎖的な迷宮だった。
しかしここには空がある。
雲が流れている。
まるで本当に別世界へ来たようだった。
「《探知》」
蓮が魔力を巡らせる。
《探知》Lv.9
淡い魔力が周囲へ広がる。
半径500メートル。
数秒後。
蓮の表情が変わる。
「反応……多い。」
「そんなに?」
「ああ。」
前方500メートルには魔力反応は三十以上。
しかも、そのほとんどが第三から第四ゲヘナクラスだった。
「気を抜けないな。」
「うん。」
二人は歩幅を合わせながら草原を進んでいく。
◇◇◇
探索開始から三十分。
魔物とはまだ遭遇していなかった。
蓮が小声で話す。
「20メートル先にいるよ。向こうも気づいてる。」
草が揺れた。
次の瞬間。
バサァッ!!
巨大な影が飛び出す。
緑色の体毛。
全長1.5メートルほどの狼。
鋭い牙を剥き、二人を睨み付けている。
《解析》
――――――――――
《グラスウルフ》
推定レート:B
特徴:群れで行動する肉食魔物。俊敏性が高く、風を纏っている為飛び道具の効果は薄い。
弱点:炎属性、首、腹
――――――――――
「一体だけじゃないよ。」
蓮が周囲を見る。
草原のあちこちで草が揺れる。
全部で八体。
恵が静かに剣を抜いた。
銀色の刀身が朝日に輝く。
「最初の戦闘だ。」
蓮も《魔法盾》と剣を構える。
「慎重に行こう。」
「うん!」
◇◇◇
最初に飛び出したのは一頭。
風を纏いながら一直線に突っ込んでくる。
「速い!」
しかし。
「見えてる!」
蓮は半歩だけ身体をずらす。
ガキィン!!
噛みつき攻撃《魔法盾》で逸らす。
その隙へ。
「はぁっ!」
恵のレイピアが閃いた。
《剣魔共鳴》
炎を纏った刺突。
ズバッ!!
グレイファングの身体が大きく裂け、そのまま倒れる。
だが。
「まだ来る!」
残る七体が一斉に動いた。
右、左、正面。
完全な連携だった。
「《前方城壁》!」
ゴォォン!!
黄金色の巨大な魔法盾が展開される。
三体が激突。
「今!」
「うん!」
恵が城壁の横を駆け抜ける。
で敵の動きを読み切り、一体ずつ確実に急所へ剣を突き立てていく。
三体撃破。
しかし。
後方から一頭が蓮へ飛び掛かった。
「!」
牙が迫る。
その瞬間。
蓮は剣へ魔力を流し込む。
《魔力付与》。
刀身が黄金色へ染まる。
「はぁぁっ!!」
横薙ぎ。
一閃。
ゴォッ!!
剣圧だけで草が大きく揺れる。
グレイファングの身体は真っ二つとなり、そのまま吹き飛んだ。
第四ゲヘナにいた頃よりも、《魔力付与》の精度が大きく向上していた。
扱いにも慣れてきている。
残る三体は、一瞬だけ動きを止めた。
本能で理解したのだろう。
目の前の二人が、自分たちより格上だと。
「逃がさない!」
恵と蓮が地面を蹴る。
一気に間合いを詰める。
閃光のような二人の連撃。
最後の三体も、抵抗する間もなく地面へ倒れ伏した。
静寂。
風だけが草を揺らしている。
蓮は剣を納め、大きく息を吐いた。
「終わったか。」
「思ったよりかはだったね。」
恵も額の汗を拭う。
「でも……。」
周囲を見回す。
戦闘時間はさほど長くは無い。
それにもかかわらず、《探知》には新たな反応が映っていた。
「……もう集まってきてる。」
魔力反応、その数十三。
さっきより明らかに増えている。
戦闘音に引き寄せられたのだ。
蓮は城壁の彼方へ目を向けた。
「これが第五ゲヘナか。」
第四ゲヘナまでなら、一つの戦闘が終われば周囲は静かになることの方が多かった。
だが、ここでは違う。
一度戦えば、その音と魔力に惹かれて次々と魔物が集まってくる。
まるで、この世界そのものが探索者を試しているかのようだった。
「恵。」
「うん。」
「今日は第五ゲヘナの戦い方を覚えることを優先しよう。」
恵は笑って頷く。
「賛成。」
二人は素早く魔石だけを回収すると、その場を離れ始めた。
だが、その時だった。
《探知》の範囲、そのさらに奥。
他の魔物とは比較にならないほど巨大で、重厚な魔力。
まるで、その場の空気そのものを支配するような存在感がそこにいた。
蓮は思わず足を止める。
「……何だ?」
恵も蓮の表情を見て異変を察する。
「どうしたの?」
蓮は険しい表情のまま、草原の彼方を見つめ続けた。
「この先に…だいぶ先だけど何かの気配がしたような。」
蓮のパークは更なる進化を遂げようとしてた。
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