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過去の約束

前回のおさらい

蓮は友達と目いっぱい遊び、一条から秘密を打ち明けられる。

夕焼けがゆっくりと夜へ溶けていく。

公園の街灯が一つ、また一つと灯り始めた。

ベンチへ並んで座る蓮と一条。

虫の鳴き声だけが静かに響いている。

一条は膝の上で両手を重ね、小さく息を吐いた。

「……何から話そうかな。」

「話せるところからでいいよ。」

蓮が穏やかに答える。

その言葉に、一条は少しだけ表情を和らげた。

「ありがとう。」

少しだけ間を置いて、一条は真っ直ぐ蓮を見つめる。

「蓮君。」

「私ね……今まで一番大事なことを隠してた。」

「一番大事なこと?」

「うん。」

一条は小さく頷く。

「私が探索者になった理由。」

「それと……。」

少しだけ目を伏せる。

「蓮君と私の、本当の関係。」

蓮は思わず首を傾げた。

「本当の関係?」

「……覚えてないよね。」

どこか寂しそうな笑顔だった。

「何を?」

「私たち…。幼なじみだったんだよ。」

その一言で、時間が止まった。

「……え?」

蓮は目を見開く。

「幼なじみ……?」

「うん。」

「小学校へ入る前まで、家がすごく近かったの。」

「毎日一緒に遊んで、毎日一緒に帰って…よく公園で鬼ごっこしてた。」

蓮は必死に記憶を探る。

だが思い出せない。

そんな様子を見て、一条は少しだけ笑った。

「やっぱり覚えてないか。」

「ごめん……。」

「謝らなくていいよ。」

一条は首を横へ振る。

「実はね。蓮君、小学一年生になる少し前に事故に遭ったの。」

「事故……?」

「うん。大きな事故じゃなかったけど、頭を強く打って。その頃の記憶が少し曖昧になったって、おばさんから聞いた。」

蓮は息を呑む。

母からそんな話を聞いた覚えはない。

「だから、私のことを忘れちゃってた。私は覚えてたけど。転校もしちゃったし、それから何年も会えなかった。」

静かな沈黙が流れる。

「じゃあ……。協会で初めて会った時。」

一条は小さく笑う。

「私は初めてじゃなかった。久しぶりだった。」

蓮は言葉を失った。

「だからあんなに話しかけてくれたのか……。」

「うん。覚えてくれてるかなって期待したけど。」

「全然だった。」

苦笑する一条。

「ちょっとだけショックだったよ。」

蓮は申し訳なさそうに頭を下げた。

「ごめん。」

「だから謝らなくていいって。」

そう言って、一条は優しく笑う。

「でもね、それでも嬉しかった。また会えたから。」

そして、一条はゆっくりと続けた。

「蓮君。私が探索者になった理由、それも、蓮君なんだ。」

「俺?」

「うん。」

一条は遠くの夜空を見上げた。

「昔…まだ小さかった頃。二人で見てたんだよ。Sレート探索者の特集。」

その瞬間だった。

蓮の脳裏に、小さな光景が浮かぶ。

夕暮れ。

古い公園。

小さな男の子と女の子。

『すごいね!』

『うん!』

『僕、大きくなったら探索者になる!』

『じゃあ私も!』

『一緒になろう!』

『約束!』

小さな指同士が絡む。

指切り。

「……っ!」

蓮は思わず頭を押さえた。

「蓮君?」

頭の奥が熱い。

忘れていた景色が、次々と浮かび上がる。

砂場で遊んだこと。

ブランコを押したこと。

泣いていた一条へ絆創膏を貼ったこと。

そして…夕焼けの公園で交わした約束。

『一緒に探索者になろう。』

『絶対だからね!』

『約束!』

「……思い出した。」

蓮が震える声で呟く。

一条の瞳が大きく揺れた。

「思い出して……くれたの?」

「全部じゃない。でも、約束だけは。」

蓮はゆっくり笑った。

「一緒に探索者になるって。」

一条の目から、一粒の涙が零れ落ちる。

「……うん。その約束。私はずっと覚えてた…だから探索者になった、蓮君が忘れてても、私は忘れたくなかった。」

蓮は胸が締め付けられるような思いだった。

自分だけが忘れていた。

一条は、その約束を何年も守り続けていた。

「ごめん…忘れてて。」

「ううん。」

一条は涙を拭いながら笑う。

「今思い出してくれた。それだけで十分。」

蓮も静かに笑った。

「俺…。約束を守れてたんだな。」

「うん、ちゃんと。」

一条は頷く。

「蓮君は約束を守った。だから今度は。」

少し照れくさそうに笑う。

「これからは一緒に探索者、続けよう?」

蓮は迷わず頷いた。

「ああ。今度は忘れない…約束だ。」

そう言って、小指を差し出す。

一条は少し驚いたあと、嬉しそうに笑った。

「ふふっ…また指切り?」

「今度こそ忘れないように。」

「うん。」

二人の小指が、ゆっくりと結ばれる。


『約束。』


夏休み最後の夜。

幼い日に途切れてしまった記憶の約束は、長い年月を経て再び結ばれた。

そして蓮はまだ知らない。

この再会と約束が、やがて第三ゲヘナだけでなく、日本中を巻き込む大きな運命の始まりになることを。

誤字脱字等御座いましたら指摘お願いします!

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