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休息

前回のおさらい

ミノタウロスを討伐。スキル《魔力付与》を継承する。

第二層の最奥でスキル《魔力付与(エピテマ)》を継承してから、数日が過ぎた。

蓮はあの日以降、無理にゲヘナへ挑むことはしなかった。

ミノタウロスという第二層最大の脅威は消えた。

遺跡も探索し終えた。

第二層でできることは、もう十分にやり切った。

「……これで、第二層攻略完了かな。」

思えば夏休みのほとんどを第三ゲヘナで過ごしていた。


レッドオーガとの死闘

新たなパーク《探知(ディテクション)》《解析(アナライズ)》。

そして特殊個体ミノタウロスとの激戦。

さらに謎の遺跡と、スキル《魔力付与》の継承。

わずか数週間とは思えないほど濃密な時間だった。

「少しくらい休んでも、罰は当たらないよな。」

苦笑しながら、蓮は眠りにつく。


◇◇◇


残された夏休みは一週間ほど。

久しぶりに学校の友人、翔太、夏鈴そして一条へ連絡すると、すぐに返事が返ってきた。

翔太と夏鈴は…

『何してたんだよ!ずっと連絡つかなかったぞ!』

『夏休みなんだから一回くらいは遊ぼ!』

一条さんからは。

「もしかしてずっーとゲヘナ??怒りマーク。」

画面を見て蓮は思わず笑う。

探索者として過ごす日々が忙しすぎて、普通の高校生としての時間を忘れかけていた。

その翌日。

蓮は3人と駅前で待ち合わせをしていた。

「蓮君おはよ。」

「久しぶり!」

「神代なんか、体つき変わってない?」

その後会った瞬間から質問攻めだった。

「ゲヘナでちょっと鍛えてたから。」

笑って誤魔化す。

死線をくぐり抜けていたとは言えない。

そのうち協会に行く一条さんには気づかれると思うが…。

昼はショッピングモールを歩き回り、ゲームセンターで遊び、フードコートでご飯を食べる。

「夏休みの宿題終わった?」

「……まだ。」

「お前絶対最後まで残すタイプだろ!」

そんな他愛もない会話が妙に心地よかった。

命懸けの戦いもない。

魔物もいない。

ただ笑って過ごすだけの一日。

それだけで十分楽しかった。


◇◇◇


別の日には海へ行った。

照り付ける太陽。

青い空。

寄せては返す波。

友人たちは水を掛け合いながら騒いでいる。

「神代も来い!」

「おー。」

海へ飛び込む。

冷たい水が火照った身体を包み込んだ。

以前なら全力で泳いでも疲れていた距離も、今では驚くほど楽に泳げる。

知らず知らずのうちにレベルが上がって身体能力まで向上しているのだろう。

「泳ぐの速くなってない?」

「そうか?」

「前こんなに速かったっけ?」

「探索者だしなぁ」

また笑って誤魔化す。

隠し事は増えた。

それでも、この時間は大切にしたかった。


◇◇◇


さらに別の日。

夏祭りへ出掛けた。

屋台が並び、提灯が夜道を照らす。

たこ焼き、焼きそば、りんご飴、射的、金魚すくい。

どれも子供の頃と変わらない光景だった。

夜空へ大輪の花火が打ち上がる。

ドンッ。

色鮮やかな光が空いっぱいに広がる。

「綺麗…。」

一条さんが呟く。

蓮も静かに見上げる。

ゲヘナの薄暗い洞窟では決して見られない景色。

こういう日常があるからこそ、自分は戦えるのかもしれない。

そんなことを思った。


◇◇◇


気付けば夏休みも残り一日となっていた。

宿題も気合いで終わらせ、翌日の準備を済ませた夕方。

スマートフォンが震える。

画面を見る。

『一条 恵』

蓮はすぐ電話へ出た。

「もしもし。」

『蓮君?』

聞き慣れた優しい声だった。

「どうした?」

『少し時間ある?』

「あるけど。」

少し沈黙が流れる。

いつもの明るい一条とは違う。

どこか迷っているような声だった。

『直接会って話したいことがあるの。』

「今から?」

『うん。』

蓮は時計を見る。

夕方六時。

「分かった。」


◇◇◇


待ち合わせ場所は、通学路にある公園だった。

夕焼けが街を赤く染めている。

ベンチには一条が一人座っていた。

「待った?」

「ううん。」

微笑む。

けれど、その笑顔はどこかぎこちなかった。

蓮も隣へ腰掛ける。

しばらく二人とも何も話さない。

風だけが静かに吹き抜けていく。

やがて一条が口を開いた。

「蓮君。」

「うん。」

「私ね……今まで黙っていたことがあるの。」

蓮は静かに顔を向ける。

一条は膝の上で両手を握り締めていた。

「ずっと言おうと思ってた。でも……言えなかった。」

声が少し震えている。

「秘密?」

「うん。」

一条は小さく頷く。

「本当は、もっと早く話すつもりだった。でも、タイミングがなくて。」

蓮は急かさず待つ。

一条は深呼吸を一つして、ゆっくりと顔を上げた。

その瞳には、いつになく真剣な光が宿っている。

「蓮君。私……。」

一瞬だけ言葉を止める。

そして意を決したように続けた。

「探索者になった理由。今の私の立場。他にも…。」

蓮は黙って聞いていた。

一条は真っ直ぐ蓮を見つめる。

「だから。今日は全部話すね。」

夕焼けがゆっくりと夜へ変わっていく。

夏休み最後の日。

それは、蓮が一条恵の”本当の秘密”を知る始まりの日となるのだった。

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