vsミノタウロス#2
前回のおさらい
ミノタウロスとの激闘。逃げる事が叶わず、戦闘を継続する蓮。
蓮とミノタウロスが正面から激突する。
ギィィィン!!
《魔法盾》と巨大な戦斧がぶつかり、耳をつんざくような金属音が洞窟内へ響き渡った。
衝撃だけで足元の岩盤が砕け散る。
「くっ……!」
蓮は歯を食いしばる。
力比べでは勝負にならない。
押し負けると同時に身体を捻り、その勢いを利用して後方へ跳んだ。
直後。
ズガァァァン!!
振り抜かれた戦斧が地面を深々と抉る。
砕けた石が弾丸のように飛び散り、蓮は石の軌道を読みながら回避する。
(重いだけじゃなく速い。)
これまで戦ったどの魔物とも違う。
あの巨体で、この速度。
一瞬でも判断が遅れれば命はない。
「グオオオオッ!」
ミノタウロスは咆哮と共に踏み込み、今度は拳を振り下ろしてきた。
蓮は横へ転がる。
拳は岩盤へ直撃し、轟音と共に巨大な穴を穿った。
その隙を逃さない。
「はぁっ!」
剣が再びアキレス腱を狙う。
ギィン!
今度はさらに深く刃が食い込む。
赤黒い血が流れ落ちる。
「グアァァァ!」
特殊個体が苛立ちを露わにする。
巨体が僅かによろめいた。
(あと少し……。)
確実に蓄積している。
だが致命傷には程遠い。
ミノタウロスは怒りに任せ、戦斧を片手で振り回した。
あまりに広い攻撃範囲。
「《魔法盾》!」
蓮は迎え撃つ。
ギィィィィン!!
《魔法盾》が衝撃を逸らす。
しかし今度は完全には流し切れなかった。
「ぐっ!」
身体ごと吹き飛ばされる。
何度も転がりながら立ち上がるが、腕全体が痺れて感覚が薄い。
(受け切れない……。)
レベルが上がったとはいえ限界はある。
まともに受け続ければ、いずれ体が耐え切れなくなる。
《解析》が更新される。
右脚負傷。
怒り状態。
「怒り状態……?」
思わず呟く。
その瞬間だった。
ミノタウロスの全身から赤黒い魔力が噴き出した。
筋肉がさらに膨れ上がる。
「まずい……!」
地面が爆ぜる。
次の瞬間には目の前だった。
「速っ――!」
戦斧ではない。
肩からの体当たり。
避け切れない。
「《魔法盾》!」
黄金の盾が展開される。
ドゴォォォォォッ!!
盾ごと吹き飛ばされた。
「がああっ!」
そのまま岩壁へ叩き付けられ、洞窟全体が震えた。
《セイクリッドシリーズ》が衝撃を吸収してなお、この威力。
口から血が零れ落ちた。
「はぁ……はぁ……。」
呼吸が苦しい。
身体中が悲鳴を上げている。
それでも《解析》だけは切らさない。
ミノタウロスはゆっくりと歩み寄ってくる。
余裕すら感じさせる足取りだった。
まるで獲物が弱るのを楽しんでいるように。
(知性がある……。)
本当に危険なのは、その力だけではない。
こちらの力量を見極め、確実に追い詰めてきている。
蓮は震える足で立ち上がる。
「まだ……。」
白い剣を握り締める。
その時、《解析》が再び更新された。
右脚負傷。
機動力微減。
「……!」
完全ではない。
それでも確実に動きは鈍っている。
蓮は力を振り絞った。
「はぁぁぁっ!」
一気に懐へ飛び込む。
戦斧が振り下ろされる。
紙一重。
鼻先を掠める。
剣を突き出す。
狙いは右目。
しかし。
ミノタウロスは首を僅かに傾けた。
ガギィン!!
剣は角へ弾かれる。
(読まれた!?)
次の瞬間。
巨大な拳が腹部へめり込んだ。
ドゴォォォッ!!
「がっ……!」
身体が宙を舞う。
何十メートルも吹き飛ばされ、岩盤へ激突。
そのまま地面へ転がった。
剣が手から離れそうになる。
「ぐ……。」
視界が揺れる。
耳鳴りが止まらない。
身体中が悲鳴を上げている。
ミノタウロスがゆっくり近付いてくる。
戦斧を引きずる音だけが洞窟へ響いた。
ズ……。ズ……。ズ……。
立てない。
脚に力が入らない。
絶望的な戦力差。
ミノタウロスは蓮の前で立ち止まる。
赤い双眸が見下ろしていた。
戦斧がゆっくりと持ち上がる。
処刑するように。
確実に終わらせる一撃。
蓮は震える手で剣を握る。
立ち上がれない。
避けられない。
防げない。
(ここまで……なのか。)
脳裏に、探索者になってからのことが浮かぶ。
《魔法盾》を授かった日
初めてゲヘナへ入った日。
ブラックホーンウルフと戦った日
実力試験、特例昇格試験、様々な魔物との戦闘。
探索者関係の人々の出会い。
そして、一条 恵との出会い……
まだ強くなれる。
まだ終われない。
「……まだ。」
蓮は小さく呟く。
「俺は……。」
戦斧が振り下ろされる直前。
今まで一度も使うことのなかった、あの力が静かに脈動する。
黄金とも白銀ともつかない光が、蓮の瞳へ宿る。
頭の中へ、機械的な声が響いた。
-制限時間残り5分。-
蓮はゆっくりとその名を口にした。
「《刻の支配者》。」
次の瞬間、蓮の視界は灰色の世界へと変わる。
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