ミノタウロス戦に備えて
前回のおさらい
特殊個体のミノタウロスが主と判明。命からがら逃げる蓮達。
第三ゲヘナ第二層で”主”と遭遇してから、一週間が過ぎていた。
蓮はあの日以来、決して無茶はしなかった。
第二層へ潜り続けながらも、ミノタウロスがいると推測される区域には近付かない。
徹底した修行だった。
◇◇◇
朝から夜まで第二層を探索し続け、第三層への道も発見していた。
戦闘中も、移動中も《探知》を一度も解除しない。
半径200メートルの世界を常に感じ取りながら歩く。
さらに、《解析》も休ませない。
目に入る魔物、鉱石や植物それに宝箱。
目に映るありとあらゆるものへ《解析》を使い続けた。
魔力の消費は決して少なくない。
しかし、膨大な魔力量を持つ蓮だからこそできる、贅沢な熟練度の上げ方だった。
最初は数秒掛かっていた《解析》も、日を追うごとに情報を読み取る速度が上がっていく。
《探知》も同様だった。
以前なら”反応”としてしか認識できなかったものが、今では魔物の種類まで何となく判別できるようになってきている。
戦闘経験も着実に蓄積されていた。
グレイファング。
ストーンガーディアン。
ケイブスパイダー。
自ら二十体程固まっている所にも戦闘を仕掛けに行く。
第二層に生息する魔物は、もはや蓮にとって脅威ではない。
《解析》で弱点を確認し、《探知》で位置を把握し、《反射》や《前方城壁》を状況に応じて使い分ける。
以前よりも遥かに無駄のない戦い方だった。
その成果は、一週間という短期間でも確実に現れ始める。
ある日の探索中。
《探知》の範囲が急に広がる。
今まで感じていた魔力の輪郭が、さらに鮮明になった。
探知範囲が一気に広がる。
200メートル。
さらにその先へ。
300メートル。
頭の中へ映し出される情報量が爆発的に増えた。
「……広い。」
思わず立ち止まる。
これまで探知できなかった遠方の魔物まで、はっきりと認識できる。
魔物、探索者の動き。それに広範囲の地形。
まるで巨大な地図を頭へ直接描き込まれたようだった。
「これがLv.6……。」
思わず笑みがこぼれる。
これなら危険察知能力はさらに向上する。
第二層の探索効率も大きく変わるだろう。
その日の帰り道。
今度は《解析》にも変化が訪れた。
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《解析》Lv.4。
解析速度が大幅に向上。
取得できる情報量も増加。
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試しにグレイファングへ向けてみる。
《グレイファング》
レート:C
特徴:高い脚力、群れでの連携。群れで生息している際、一回り大きな個体がリーダーの可能性あり。
弱点:喉部、腹部。火属性の魔法。
入手素材:中程度の魔石。
「情報が増えた……。」
以前とは比較にならない。
弱点だけではない。
全体的に詳細を表示されるようになっていた。
「便利すぎる……。」
思わず苦笑する。
鑑定士が言っていた意味がようやく理解できた。
熟練度が上がれば化ける。
まさにその通りだった。
アーツの方も順調だった。
《前方城壁》は戦闘のたびに使用し続けた結果、Lv.3へ到達。
黄金の城壁は以前より厚みを増し、展開速度も向上している。
《反射》も同じくLv.3。
攻撃を跳ね返す精度がさらに上がる
以前は強攻撃に対して、効果が薄かったが、今では相手の体勢を大きく崩せるほどになっている。
そして、《魔法盾》も以前より耐久力が増しているように感じられた。
蓮は確かな成長を実感していた。
◇◇◇
その日の探索を終え、蓮は第二層入口付近で小休止を取っていた。
水筒を口へ運びながら、《探知》を広げる。
半径300メートル。
魔物は三十七体。
探索者八名。
そして――。
「……!」
一つだけ。
桁違いの魔力反応。
約290メートル先。
あの日遭遇した、特殊個体のミノタウロスだった。
以前なら探知範囲の外だった距離。
しかし今は、はっきりと位置が分かる。
「これなら……。」
蓮は静かに地図を思い浮かべる。
ミノタウロスの巡回経路。
移動速度。
立ち止まる場所。
ここ数日観察してきた情報と合わせると、一つの事実が見えてきた。
「あいつ……縄張りを巡回してる。」
完全にランダムではない。
一定の範囲をゆっくりと歩き回っている。
(中心に何かある……?)
巣なのか。
希少な鉱脈なのか。
あるいは、他の何か。
蓮の胸に探索者としての好奇心が湧き上がる。
だが、すぐに首を振った。
「いや、まだだ。」
今はまだ実力不足。
《探知》も《解析》も成長したとはいえ、勝てる保証などどこにもない。
むしろ、以前より相手の危険さを正確に理解できるようになったからこそ、無謀な挑戦は避けるべきだと分かっていた。
「もっと強くならないと。」
そう呟きながら立ち上がる。
その時だった。
《探知》が、ミノタウロスの縄張りのさらに奥。
これまで一度も気付かなかった場所に、変わった魔力反応を捉えた。
小さい。
しかし、明らかに鉱石や魔物とも違う反応。
それは縄張りの中心部で、静かに脈打つように輝いていた。
「……何だ、あれ。」
《解析》遠すぎて届かない。
だが、《探知》は確かにそこに”何か”が存在すると告げていた。
ミノタウロスが守るように巡回する場所。
その中心に眠る未知の存在。
蓮はその方向を静かに見つめる。
第二層最大の秘密は、まだ誰にも知られていなかった。
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