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主の正体

前回のおさらい

第二層の主に接近する探索者を止めるため、危険を覚悟で接近する。

蓮は足音を殺しながら、薄暗い通路を駆け抜ける。

探知(ディテクション)》には三人の探索者の反応。

その先には、ゆっくりと移動を続ける巨大な魔力反応。

両者の距離は、もう100メートルを切っていた。

(間に合ってくれ……!)

蓮は息を整えながら速度を上げる。


◇◇◇


「止まってください!」

蓮の声が静かな洞窟へ響いた。

「え?」

突然声を掛けられた三人の探索者が一斉に振り返る。

男性二人に女性一人。

いずれもCレートと思われる装備を身に着けたパーティーだった。

「君は?」

年長らしい男性が眉をひそめる。

蓮はすぐに答えた。

「この先へ進んでは駄目です!」

三人は顔を見合わせた。

「どういう意味だ?」

「この先に強力な魔物がいます。第二層の主かもしれません。」

その言葉に三人の表情が変わる。

「主……?」

「噂の?」

男性は半信半疑だった。

「そんなもの見たことが…」

その瞬間だった。

ドォン……

地面が微かに揺れた。

四人は同時に口を閉ざす。

さらに、重く規則正しい足音。

岩壁の向こうから響いてくる。

(近い。)

《探知》が伝える。

距離50メートル。

巨大な反応は真っ直ぐこちらへ歩いてきていた。

「来ます。」

蓮が小さく呟く。

「全員、明かりを消してください。」

三人は慌ててライトを消した。

洞窟が闇に包まれる。

聞こえるのは重い足音だけ。

距離30メートル。

解析(アナライズ)》を発動する。

まだ姿は見えない。

だが、魔力を集中し続ける。

やがて巨大な影が通路の奥から姿を現した。

高さは3メートルを超える。

全身を赤黒い筋肉が覆い、頭部には巨大な二本角。

牛の頭部を持つ異形。

右手には、一本の巨大な戦斧。

刃だけでも人間ほどの大きさがあった。

赤い双眸だけが闇の中で妖しく輝く。

蓮は《解析》を最大限集中させる。

そして情報が流れ込んだ。

----------------------

ミノタウロス(特殊個体)

レート:B+〜A

特徴:圧倒的な筋力、極めて高い耐久力、魔力感知能力を有する。

弱点:熟練度不足により解析失敗

----------------------

「……。」

蓮の背筋へ冷たい汗が流れた。

(弱点が分からない……。)

《解析》でも読み切れない。

今の熟練度では情報が不足している。

しかも。

推定Aレート。

レッドオーガとは比較にならない。

「うそ……。」

女性探索者が震える声を漏らす。

「ミノタウロス……。」

年長の男性も息を呑んだ。

「あんなの……見たことがない。」

ミノタウロスは立ち止まる。

ゆっくりと鼻を鳴らした。

フシュゥ……

空気を吸い込む。

女性探索者が小さく後ずさる。

コツ……

靴が小石を蹴った。

乾いた音が洞窟へ響く。

一瞬だった。

赤い瞳がこちらを向く。

「見つかった!」

蓮は叫んだ。

「走って!」

グオオオオオオオオオッ!!

咆哮。

洞窟全体が震える。

ミノタウロスが地面を砕きながら突進した。

「《前方城壁(スクード)》!!」

轟音と共に黄金の城壁が出現する。

しかし。

ドガァァァァン!!

戦斧が振るわれた瞬間。

城壁にヒビが入る。

「なっ……!」

蓮は目を見開く。

《前方城壁》にヒビが入るのを初めて見た。

「逃げてください!」

三人は必死に走り出した。

だが。

ミノタウロスは再び戦斧を振り上げる。

(追い付かれる!)

蓮は即座に判断した。

「《前方城壁》!」

再度展開、足止めに使う

ガガガガガァァン!!

またしてもヒビが入るだが。

僅かに勢いが止まった。

「今です!」

その隙に四人は全力で通路を駆け抜ける。

探知(ディテクション)》が周囲を映し出す。

右。

細い通路。

「こっち!」

蓮が誘導する。

四人は狭い横穴へ飛び込んだ。

ミノタウロスは巨体ゆえに進入できない。

「グオオオオオッ!」

怒りの咆哮が響く。

巨大な腕が入口へ伸びる。

「《前方城壁》!」

再び城壁を展開。

今度は通路を塞ぐように。

轟!!

腕が城壁を叩き割ろうとする

だが、その間に四人はさらに奥へ走った。

曲がり角を二つ、三つ。

《探知》で確認する。

巨大な反応は通路の前で止まっていた。

狭い通路へは入れないらしい。

しばらく咆哮が続き。

やがて重い足音が遠ざかっていく。

蓮はなおも《探知》で追跡する。

ついに探知範囲の外へ消えた。

「……助かった。」

蓮はその場へ座り込んだ。

緊張が一気に押し寄せる。

男性探索者も大きく息を吐く。

「あれが……第二層の主。」

「勝てるわけがない。」

女性探索者は膝を抱え、震えが止まらない。

これまで数々の攻撃すら受け止めた《前方城壁》

それを一撃でヒビを入れる力。

力量の差は歴然だった。

蓮は静かに白い剣へ視線を落とす。

《解析》で分かったのは名前と大まかな能力だけ。

弱点は「解析不足」。

つまり、今の自分では攻略するための情報すら引き出せないということだ。

(まだ早い。)

その現実を、嫌というほど思い知らされた。

だが同時に、一つだけ収穫もあった。

《探知》があったからこそ接近に気付き、《解析》があったからこそ相手の危険度を把握できた。

どちらか一つ欠けていても、全滅していただろう。

蓮はゆっくりと立ち上がる。

「今日は帰りましょう。」

三人も無言で頷いた。

第二層の主、特殊個体のミノタウロス。

蓮は胸の内で静かに誓う。

(今は勝てない。でも、いつか必ず。)

《探知》を鍛え、《解析》を極め、新たな力を身につける。

その時こそ、あの圧倒的な”主”に挑む日が来る。

そう決意を新たにした蓮は、生還した三人と共に、第一層への階段を目指して静かに歩き始めた。

誤字脱字等御座いましたら指摘お願いします!

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