新たなパークブック
前回のおさらい
第二層には主の噂が。蓮の《探知》には主かどうか分からないが確実に強敵の反応がある。
蓮はいつも通り早朝から第三ゲヘナ第二層へ潜っていた。
《探知》は発動したまま。
半径200メートルの索敵範囲が、洞窟内の状況を常に頭の中へ映し出している。
(今日は昨日より奥まで行ってみるか。)
慎重に進みながらも、無理はしない。
巨大な魔力反応を感じたら引く。
それが今の蓮の方針だった。
道中ではグレイファングやストーンガーディアンと何度か遭遇したが、もはや危なげない。
《探知》で先読みし、《魔法盾》で受け、《反射》で隙を作り、白い剣で急所を斬る。
戦闘時間は以前よりも大幅に短くなっていた。
「やっぱり装備が変わるだけで違うな。」
《セイクリッドシリーズ》は防御性能だけではない。
軽量化された鎧のおかげで、体力の消耗も明らかに少なくなっている。
以前なら夕方には疲労が蓄積していたが、今はまだ余裕があった。
◇◇◇
昼過ぎ。
蓮は第二層でも見たことのない場所へ辿り着いていた。
そこは広大な鍾乳洞だった。
天井は20メートル以上あり、無数の鍾乳石が垂れ下がっている。
地下水が流れ、小さな湖までできていた。
「綺麗だな……。」
幻想的な景色だった。
黒紫色の鉱石が壁一面へ埋め込まれ、淡い光を放っている。
しかし。
《探知》はすぐに反応を伝えてきた。
(反応……7。)
魔物だった。
(群れか。)
蓮はすぐ岩陰へ身を隠す。
ゆっくり様子を窺うと、水辺にはストーンガーディアンが巡回していた。
さらに、その奥。
「……宝箱。」
岩壁の窪みに、綺麗な装飾が施された宝箱が置かれている。
レッドオーガの時ほど豪華ではないが普通の宝箱とはとは違う。
(守られてる。)
強引に突っ込めば勝てるかもしれない。
だが消耗は避けられない。
蓮はしばらく考え込んだ。
(……いや。)
右手を見つめる。
中指には《刻の支配者》が静かに輝いていた。
(使うほどじゃない…か。)
切り札は、本当に命の危険がある時だけ。
そう決めている。
「なら普通にやろう。」
蓮は静かに剣を抜いた。
まず一体。
巡回から少し離れた個体を狙う。
《探知》で他の位置を把握しながら一気に接近。
「はっ!」
一閃。
核まで届き、一体目は一瞬で消滅した。
残る六体。
すぐに気付かれる。
ゴゴゴゴ……
六体が一斉に蓮へ向かって歩き出した。
「《前方城壁》!」
黄金の壁が地面から突き上がる。
六体の足並みが止まった。
その隙に一体ずつ側面へ回り込む。
脚部を破壊。
転倒。
核を破壊。
その繰り返しだった。
20分ほど経った頃には、最後の一体も光となって消えていく。
「ふぅ……。」
今回は危なげなく勝利できた。
以前なら苦戦していただろう。
確実に強くなっている。
蓮はそのまま宝箱へ近付いた。
《探知》で周囲を再確認。
罠はない。
ゆっくりと蓋を開ける。
ギィ……
中に入っていたのは、一冊のパークブックだった。
「……またパークブックか。」
武器でも素材でもない。
表紙には古代文字。
蓮には読むことができない。
「また鑑定だな。」
苦笑しながら収納ポーチへしまう。
その時だった。
《探知》が新たな反応を捉えた。
「!」
約190メートル先。
巨大な魔力。
昨日感じたものと同じだった。
しかも今度は止まっていない。
こちらへ向かっている。
「まさか……!」
蓮は即座に周囲を確認する。
一本道。
隠れる場所は少ない。
巨大な反応との距離はどんどん縮まっていく。
明らかに速い移動速度だった。
蓮は迷わず走り出した。
戦うためではない。
逃げるためだ。
《探知》があるからこそ分かる。
あれは今の自分が挑む相手ではない。
通路を全力で駆け抜ける。
背後では岩盤を揺らすような重低音が響いていた。
ドォン……
ドォン……
距離は再び180メートル。
相手も途中で進路を変えたらしい。
やがて。
《探知》の範囲外へ巨大な反応が消えた。
蓮はようやく足を止める。
「はぁ……はぁ……。」
額から汗が流れる。
戦ってもいないのに、鼓動だけが激しく脈打っていた。
(今のは……本当に危なかった。)
《探知》がなければ、おそらく鉢合わせになっていた。
そうなれば逃げられた保証はない。
蓮は深く息を整える。
「もっと強くならないと。」
レッドオーガを倒したことで、自分に少し自信が付いていた。
だが第二層には、それを簡単に覆す存在がいる。
《探知》があるから生き残れた。
その事実を改めて実感した。
蓮は腰の白い剣を軽く握る。
「……今日は帰ろう。」
収穫は十分だ。
パークブック
虹色の素材。
そして、第二層には自分ではまだ届かない領域が存在することも分かった。
焦る必要はない。
力を付け、一歩ずつ進めばいい。
そう心へ言い聞かせながら、蓮は第一層への階段を目指して歩き始めた。
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