蓮の実力
前回のおさらい
ピンチの探索者5人組を助ける為急いで駆けつける。
蓮は全力で洞窟を駆け抜ける。
《探知》が伝えてくる反応は、刻一刻と変化していた。
探索者五人。
魔物二十体以上。
しかも、その中心には一際大きな魔力反応が存在している。
通路を曲がった瞬間、金属音と悲鳴が耳へ飛び込んできた。
ガァァァン!!
「ぐあっ!」
一人の男性探索者が吹き飛ばされ、岩壁へ激突する。
その前へ立ちはだかっていたのは、全身を黒い甲殻で覆われた巨大な昆虫型魔物だった。
『アーマードビートル』
『討伐推奨レート:C+』
その周囲にはグレイファングやゴブリンソルジャー、ケイブスパイダーなどが入り乱れている。
「くそっ……!」
盾役らしい男性が必死に剣を振るう。
しかし疲労は明らかだった。
鎧は傷だらけで、肩からは血が流れている。
後衛の女性探索者も魔法を放っているが、魔力切れが近いのか威力が弱い。
「リーダー!」
「まだ来る!」
魔物たちは容赦なく押し寄せる。
その時だった。
「《前方城壁》!」
ゴゴゴゴゴッ!!
黄金の城壁が地面から突き上がり、魔物の群れを真正面から押し止めた。
「なっ!?」
探索者たちが一斉に振り向く。
白い外套を翻しながら、一人の青年が歩み出る。
「今のうちに下がってください!」
「君は……!」
蓮は返事をする暇もなく駆け出した。
《魔法盾》を右手へ展開。
飛び掛かってきたグレイファングを受け止め、その勢いのまま白い剣を振るう。
一閃。
狼は悲鳴を上げる暇もなく光となって消えた。
続けざまに迫るゴブリンソルジャー。
《探知》が全ての位置を把握している。
背後、右、左上。
蓮は振り返ることなく《魔法盾》でゴブリンアーチャー矢を防ぎ、前方のゴブリンを斬り伏せる。
「す、すごい……。」
女性探索者が呆然と呟いた。
「何者だ……?」
「後で説明します!」
蓮は叫ぶ。
「今は生き残ることを優先してください!」
その言葉で五人も我に返る。
「了解!」
盾役の男性が再び前へ出る。
「援護する!」
後衛の女性も残った魔力を振り絞り、火球を放った。
蓮は《探知》で群れ全体を見渡す。
(数が多い。)
だが、統率は取れていない。
ならば、一体ずつ減らせばいい。
蓮は走った。
剣が閃くたび、魔物が消えていく。
《セイクリッドシリーズ》は軽く、動きを一切妨げない。
以前なら避けきれなかった攻撃も、今では紙一重でかわすことができる。
その時。
ズシン……。
重い足音が響いた。
アーマードビートルが巨体を揺らしながら突進してくる。
頭部の巨大な角が一直線に蓮を狙う。
「危ない!」
探索者が叫ぶ。
しかし蓮は慌てない。
「《魔法盾》!」
ガァァァン!!
激しい衝撃。
黄金の盾が角を受け止める。
普通の探索者なら吹き飛ばされていただろう。
だが蓮は一歩も退かなかった。
「今!」
身体を捻り、側面へ回り込む。
アーマードビートルの甲殻は硬い。
正面から斬っても意味はない。
《探知》で魔力の流れを読む。
脚の付け根。
そこだけ魔力が薄い。
(そこだ。)
白い剣が鋭く走る。
ギギギィッ!!
硬い感触。
しかし刃は止まらない。
脚が一本切断される。
巨体が傾いた。
さらに追撃。
もう一本。
足2本を失ったアーマードビートルは、そのまま横倒する。
「終わりだ。」
蓮は頭部と胴体の隙間へ剣を突き立てる。
巨大な甲殻が光となって崩れていく。
「倒した……。」
誰かが呟く。
指揮格を失ったことで残る魔物は完全に混乱した。
「押し返せ!」
盾役の男性が叫ぶ。
五人も一斉に反撃へ転じる。
十分ほどで、最後のグレイファングも討伐された。
洞窟に静寂が戻る。
「助かった……。」
盾役の男性はその場へ座り込んだ。
「本当に助かった。」
蓮は《探知》を広げる。
周囲に新たな反応はない。
「もう大丈夫です。」
そう言って《魔法盾》を解除した。
「ありがとう。」
女性探索者が深く頭を下げる。
「あと少し遅かったら、私たちは全滅していました。」
「たまたま近くを探索していただけです。」
蓮は苦笑する。
するとリーダーらしき男性が蓮をまじまじと見つめた。
「君……ソロか?」
「はい。」
「第二層を?」
「そうです。」
五人は顔を見合わせる。
「信じられん……。」
「それにさっきの動き……。」
「どう見てもベテランだったぞ。」
蓮は照れくさそうに頭を掻いた。
「まだ探索者を始めたばかりなんですけどね。」
その言葉に五人は苦笑した。
「それでその実力か……。」
リーダーは立ち上がり、右手を差し出す。
「俺は篠崎Cレートパーティー『焔』のリーダーだ。」
蓮も握手を返す。
「神代です。」
「神代君。」
篠崎は真剣な表情になる。
「一つだけ忠告しておく。」
「第二層には、さっきみたいな群れがあちこちにいる。」
「それに、最近は奥でBレート級らしき魔力反応を見たという報告もある。」
蓮は静かに頷いた。
「ありがとうございます。」
「君なら大丈夫だとは思うが、無理だけはするな。」
「はい。」
短い会話を終え、お互いに頭を下げる。
『焔』の五人は1度休息を選び第二層の階段の方へ歩き出した。
蓮はその背中を見送りながら、小さく息を吐く。
第二層は、第一層とは比べものにならない。
魔物の質も量も、一段階上だった。
それでも不思議と恐怖はない。
腰には新しい剣。
身には《セイクリッドシリーズ》。
そして、《探知》は休むことなく周囲を見渡し続けている。
蓮は第二層のさらに奥へ視線を向けた。
《探知》の範囲ギリギリ。
200メートル先。
一瞬だけ、今まで感じたことのない巨大な魔力反応が揺らめいた。
それはすぐに消えたが、確かに存在していた。
「……今のは。」
思わず息を呑む。
レッドオーガ以上かもしれない圧倒的な存在感。
第二層の奥には、まだ自分の知らない強敵が待っている。
蓮は白い剣の柄を握り直す。
蓮は《探知》を維持したまま、未知の奥地へと再び歩き始めた。
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