第三ゲヘナ第二層
前回のおさらい
装備を一新し、第二層の準備をする。
翌朝。
まだ陽が昇り切る前の早朝。
蓮は新しい装備に身を包み、探索者協会へ立ち寄ってから第三ゲヘナへ向かっていた。
白を基調とした《セイクリッドシリーズ》は朝日に照らされ、淡く輝いている。
「やっぱり少し目立つかな……。」
そう苦笑しながらも、動きやすさは昨日試した通り申し分ない。
肩や腰の違和感もなく、まるで体の一部のように馴染んでいた。
ゲヘナ入口で端末を認証し、中へ足を踏み入れる。
ひんやりとした空気が全身を包み込んだ。
「《探知》。」
いつものようにパークを発動する。
瞬間、半径二百メートルの世界が頭の中へ広がる。
魔物の反応。
探索者の位置。
微弱な魔力鉱石。
それらが地図のように浮かび上がる。
「異常なし。」
蓮はゆっくり歩き始めた。
第一層はすでに何度も歩いた道だ。
魔物に遭遇しても危なげなく討伐し、一時間ほどで第二層へ続く石階段へ到着した。
巨大な岩壁。
古代文字の刻まれた石碑。
昨日見つけたばかりの場所だった。
「……行こう。」
蓮は一歩ずつ階段を下りていく。
降りるたびに空気が少しずつ冷たくなっていく。
やがて足元が平らになった。
「ここが……第二層。」
ライトを照らす。
第一層とは明らかに景色が違っていた。
通路はさらに広く、高さもある。
岩肌には黒紫色の鉱石が点在し、不気味な光を放っている。
天井から垂れ下がる鍾乳石は槍のように鋭く、ところどころ地下水が流れていた。
「雰囲気が全然違うな。」
《探知》を広げる。
反応は十数。
そのほとんどが魔物。
だが第一層とは魔力の濃さが違う。
「一体一体が強い……。」
慎重に歩き始める。
数分後。
最初の反応が近付いてきた。
岩陰から姿を現したのは、全身を灰色の毛で覆われた狼だった。
通常のケイブウルフより一回り大きい。
『グレイファング』
『討伐推奨レート:C』
「Cレートか。」
グレイファングは低く唸ると、一気に飛び掛かってきた。
「《魔法盾》。」
黄金の盾が展開される。
ガンッ!
牙が盾へ食い込む。
その勢いを利用して蓮は身体を捻った。
「はっ!」
白い剣が閃く。
鋭い一撃が首筋を斬り裂いた。
グレイファングは数歩よろめき、そのまま光となって消える。
「……すごい。」
以前なら一撃で終わる相手ではなかった。
だが新しい剣は驚くほど切れ味が良い。
装備も軽く、身体の動きを邪魔しない。
「いい買い物だった。」
そう呟いて再び歩き出した。
◇◇◇
さらに奥へ進む。
《探知》が一つの違和感を捉えた。
「……?」
魔物が動かない。
壁際でじっとしている。
慎重に近付く。
ライトを向けた瞬間、それは動いた。
ガガガガガッ!
岩壁そのものが立ち上がる。
「ゴーレム!」
『ストーンガーディアン』
『討伐推奨レート:C+』
身長は二メートル半。
拳だけで蓮の胴体ほどもある。
「《前方城壁》!」
巨大な拳が振り下ろされる。
轟音と共に城壁が受け止めた。
だが蓮も慌てない。
横へ回り込み、脚部の関節を狙う。
ガギィン!
白い剣が岩を削る。
やがて足の一部が砕けた。
バランスを崩したゴーレムへ飛び込み、頭部へ一閃。
核が砕け、巨体は崩れ落ちた。
「第二層でも十分戦える。」
新しい装備の性能を確信する。
◇◇◇
それから数時間。
蓮は第二層を慎重に探索していた。
《探知》のおかげで危険な魔物との遭遇は最小限。
魔物の群れを避け、探索者のいる場所を把握し、効率良く進んでいく。
途中、宝箱を一つ発見した。
中身は中級魔力回復ポーション三本と魔鋼鉄のインゴット。
十分な収穫だった。
「第二層は素材の質も上がってる。」
収納ポーチへしまいながら頷く。
その時だった。
《探知》が遠方で複数の反応を捉えた。
探索者が五人。
その周囲には三十を超える魔物。
「戦闘……?」
しかも反応は徐々に弱まっている。
1つ、2つ。
魔物ではない。
探索者の反応だ。
「まずい。」
蓮の表情が変わる。
距離は直線にして150メートル。
普通なら気付けない。
しかし《探知》がある。
蓮は迷わず駆け出した。
新しい装備が風を切る。
白い外套が後ろへ翻る。
通路を抜けながら反応を追う。
(急げ……!)
探索者は残り三人。
魔物はまだ二十以上。
第二層へ降りた初日。
新たな装備を身に着けた蓮は、再び誰かの命が懸かった戦場へと駆け込もうとしていた。
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