強敵#1
前回のおさらい
ゴブリンとの戦闘を経て新たなアーツ《反射》を取得する。
蓮が魔石をバックパックへしまい、再び森の奥へ足を踏み入れた。
「少しずつ慣れてきたな。」
ゴブリンとの戦闘で、《魔法盾》の特性も少しずつ見えてきた。
さらにレベルアップと《反射》の習得。
収穫は十分と言える。
だが、蓮はまだ引き返すつもりはなかった。
「もう少しだけ進んでみよう。」
探索者として強くなるためには、実戦経験が何よりも重要だ。
周囲を警戒しながら歩くこと十分ほど。
森の景色が少しずつ変わり始めた。
木々は太くなり、空気はひんやりとしている。
地面には今まで見なかった巨大な足跡が残されていた。
「……大きい。」
ゴブリンのものではない。
幅だけでも三十センチ近くある。
嫌な予感が脳裏をよぎる。
その時だった。
ズシン――。
地面が揺れた。
「!?」
蓮は反射的に剣を抜き、《魔法盾》を構える。
重い足音が森の奥から近づいてくる。
木々の間から姿を現した”それ”を見た瞬間、蓮は息を呑んだ。
「……でかい。」
全長三メートルを超える巨大な狼。
漆黒の毛並みは光を吸い込むように黒く、額には二本の鋭い黒角。
真紅の瞳が蓮を真っ直ぐ見据えていた。
その圧倒的な存在感だけで、空気が張り詰める。
「グルルルル……。」
低い唸り声。
身体の奥から恐怖が湧き上がる。
本能が叫んでいた。
逃げろ。
だが蓮は視線を逸らさなかった。
探索者協会で見た魔物図鑑を思い出す。
「ブラックホーンウルフ……。」
第一ゲヘナで極めて稀に確認される危険個体。
通常種とは比べ物にならない身体能力を持ち、推奨討伐レートはD+。
Eレート探索者ではまず勝てないとされている魔物だった。
「なんで第一ゲヘナに……。」
ブラックホーンウルフは答えない。
代わりに、ゆっくりと前脚を踏み出した。
ズシッ。
その一歩だけで木の葉が舞う。
「まずい……。」
蓮は冷静に状況を整理する。
逃げるか。
戦うか。
非常用転移石はある。
今ならまだ間に合う。
しかし、腰のポーチへ手を伸ばそうとした、その瞬間。
「グォォォッ!」
ブラックホーンウルフが咆哮した。
ビリビリと空気が震える。
直後、その巨体が信じられない速度で地面を蹴った。
「速っ!」
目でギリギリ追えるかどうか…
気付いた時には巨大な爪が目前まで迫っていた。
反射的に《魔法盾》を構える。
ガァァンッ!!
凄まじい衝撃。
蓮の身体が数メートル吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
地面を滑りながら何とか踏みとどまる。
右腕が痺れていた。
盾がなければ、今の一撃で終わっていた。
「なんて力だ……。」
ゴブリンとは比較にならない。
受け止めるだけで腕が悲鳴を上げている。
ブラックホーンウルフは間髪入れずに追撃へ移る。
右へ、左へ跳ぶように移動する。
その巨体とは思えない俊敏さ。
「見えない……!」
蓮は必死に視線で追う。
剣術の経験があるからこそ辛うじて対応できているが、それでも速すぎる。
「そこ!」
読みで剣を振る。
しかし、空を切る。
次の瞬間、背後から気配。
「しまっ――」
ドォンッ!!
横薙ぎの一撃が盾へ叩き込まれる。
衝撃で身体が宙へ浮いた。
木へ激突し、息が詰まる。
「かはっ……!」
肺から空気が押し出される。
それでも何とか立ち上がる。
ブラックホーンウルフは追い討ちをかけず、静かに蓮を見つめていた。
まるで品定めでもするように。
「……舐められてるな。」
悔しさが込み上げる。
相手は本気ですらない。
それでも、自分は押されっぱなしだ。
蓮は深く息を吸った。
左手で剣を握り直す。
右腕の《魔法盾》へ意識を集中させる。
「まだだ……。」
このまま終わるわけにはいかない。
新たに覚えた《反射》。
この技が通用するかどうか。
それが、この戦いの鍵になる。
ブラックホーンウルフが再び地面を蹴った。
蓮は恐怖を押し殺し、真正面から迎え撃つ構えを取るのだった。
誤字脱字等御座いましたら指摘お願いします!
続きが気になる!面白い!と思ってくださったら評価お願いします。励みになりますm(_ _)m




