希少なアーティファクト
前回のおさらい
レッドオーガ討伐。豪華な宝箱からは指輪と鍵が出てきたため、探索を切り上げ鑑定に向かう。
第三ゲヘナを出た頃には、空は夕焼けに染まり始めていた。
蓮は探索者協会本部へ足を運ぶ。
自動ドアをくぐると、受付の女性職員がすぐに気付いた。
「あ、神代さん。お帰りなさい。」
「ただいま戻りました。」
「今日は随分早いお戻りですね。」
「ちょっと珍しい物を見つけたので。」
そう言って収納ポーチから指輪と古びた鍵を取り出す。
職員は二つを見るなり、表情を引き締めた。
「……アーティファクトと、鍵ですか。」
「はい。」
「少々お待ちください。」
職員は奥へ連絡を入れる。
数十秒後、以前パークブックを鑑定してくれた年配の鑑定士が姿を現した。
「神代君でしたか。」
「また宝箱を?」
「はい。今回は隠し通路を見つけレッドオーガを倒した先で見つけました。」
その言葉に鑑定士の眉が僅かに上がる。
「隠し通路それはまたまた…しかもレッドオーガを?一人で?」
「はい。」
「……ほう。」
驚きを隠せない様子だったが、すぐに仕事へ意識を戻した。
「では鑑定室へ。」
◇◇◇
探索者協会本部・鑑定室。
蓮は机の上へ、銀色の指輪と古びた鍵を並べた。
鑑定士はまず鍵へ目を向けると、小さく頷いた。
「こちらは鑑定の必要はありませんね。」
「え?」
蓮が首を傾げる。
「第三ゲヘナ以降では、稀にこのような鍵が宝箱から発見されます。」
鑑定士は棚から一冊の資料を取り出した。
「そして、ごく低確率ですが、第三ゲヘナ以降には『鍵の掛かった部屋』が出現することがあります。」
「鍵の掛かった部屋……。」
「はい。通常の探索では入れない特別な部屋です。」蓮は思わず身を乗り出した。
「その鍵で開くんですか?」
「その可能性が高いです。ただし、部屋の位置は毎月変化するダンジョン構造と同様に一定ではなく、発見報告も極めて少ない。」
鑑定士は苦笑する。
「中に何があるのかも、人によって報告が違います。」
「希少鉱石だったという者もいれば、アーティファクト、武器や防具を見つけたという者もいます。」
「つまり……。」
「実際に見つけて開けるしかありません。」
蓮は鍵を手に取った。
見た目は古びた鍵だが、不思議と重厚感がある。
「失くさないようにしてください。」
「はい。」
収納ポーチの奥へ丁寧にしまう。
そして鑑定士は、もう一つの指輪へ視線を移した。
専用の魔道具へ置き、魔力を流し始める。
淡い光が指輪を包み込み、部屋の空気が僅かに震えた。
数十秒後。
鑑定士の表情が驚愕へ変わる。
「これは……。」
「どうしました?」
「少々、お待ちください。」
鑑定士は別の魔道具まで取り出し、二度、三度と確認を繰り返す。
そして深く息を吐いた。
「間違いありません。」
「非常に希少な時間干渉系アーティファクトです。」
「時間干渉……?」
蓮も思わず息を呑む。
鑑定士は静かに説明を始めた。
「名称は《刻の支配者》。」
「能力は極めて単純です。」
「発動から五分間、使用者以外の時間感覚を大幅に遅延させます。」
「……え?」
「正確には時間を止めるわけではありません。使用者自身の時間感覚と身体能力が加速したような状態になり、周囲の全てが極端なスローモーションに見えます。」
蓮は言葉を失う。
「そんな能力が……。」
「ただし制約があります。一日に何度も使えるものではありません。使用後のクールタイムは二十四時間。一度発動すると、丸一日は再使用できません。」
「なるほど……。」
強力だが、切り札としてしか使えない能力。
「さらに、五分経過すると自動的に解除されます。そのため、使うタイミングが非常に重要になります。」
鑑定士は珍しく興奮した様子だった。
「時間干渉系アーティファクトは市場にほとんど出回りません。確認されているだけでも国内では数点しか存在しないほどです。売却価格を付けることも困難ですね…過去のオークションでは数兆で取引された事があるとか。」
蓮は静かに指輪を見つめる。
「装備しますか?」
「もちろんです。」
指輪を右手の中指にはめる。
カチリ、と吸い付くように収まった。
次の瞬間、淡い琥珀色の光が一瞬だけ輝き、すぐに消える。
特に身体が重くなったり軽くなったりする感覚はない。
「ほうこれは…」
鑑定士が説明する。
「このアーティファクトは使用者固定のようですね。その人の魔力と同期した感じがあります。いざという時には命を救う一枚の切り札になるでしょう。」
蓮は右手をゆっくり握った。
《探知》による索敵。
《魔法盾》による攻防。
そして、《刻の支配者》による五分間の時間干渉。
第三ゲヘナで得た力は、既に蓮の探索者としての可能性をさらに大きく広げるものだった。
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