対レッドオーガ
今回少し長めのためどこかの話で短めになるかもです。
《前方城壁》に激突したレッドオーガは、一瞬だけ動きを止めた。
「はぁっ!」
蓮はその隙を逃さず飛び出す。
狙いは脇腹。
ギィンッ!
剣が赤黒い皮膚を斬り裂く。
だが浅い。
「硬い……!」
レッドオーガは痛みを感じた様子もなく振り向いた。
次の瞬間。
棍棒が横薙ぎに迫る。
「っ!」
蓮は《魔法盾》を展開。
ガァァァン!!
凄まじい衝撃に身体ごと吹き飛ばされる。
岩壁へ叩きつけられる寸前で受け身を取り、なんとか着地した。
腕が痺れる。
(強い。今まで戦ったどの魔物よりも。)
アーマードマンティスもストーンゴーレムも危険だった。
だが目の前のレッドオーガは違う。
攻撃力、防御力、速度、全てが高水準。
まさにBレートの魔物だった。
「グォォォォッ!」
咆哮と共に再び突進。
蓮は《探知》を維持したまま相手を見据え続けると。
視界だけではなく、レッドオーガの魔力の流れが僅かに感覚として伝わってくる。
(右から来る!)
蓮は先に動いた。
棍棒が振り抜かれるより早く横へ回り込む。
ドォォン!!
地面が砕ける。
その隙に蓮は脚へ斬撃を放つ。
ガギィン!
しかし今度は少し深く入った。
レッドオーガが不快そうに眉を歪める。
(効いてる。)
(少しずつなら通る。)
ならば削るしかない。
蓮は走った。
攻撃しては離脱。
防御または回避しては攻撃。
ヒットアンドアウェイを繰り返す。
レッドオーガも負けじと暴れ回る。
棍棒が振るわれるたび岩壁が砕ける。
天井から岩片が降り注ぐ。
まるで災害だった。
十分。
二十分。
戦闘は長引いていく。
蓮の額から汗が流れる。
体力は削られていたがまだ余力はある。
対するレッドオーガも無傷ではない。
脚、肩、脇腹、全身に傷が刻まれている。
だが倒れる気配はない。
「化け物か……。」
その時だった。
レッドオーガが再び咆哮する。
身体が赤い光に包まれる。
先ほどの自己強化だ。
だが今回は違った。
《探知》のおかげか、胸の中心だけ異様に光って見える。
《探知》が内部の魔力反応を捉えていた。
あそこに心臓または急所だと確信した。
「なら……!」
蓮は大きく息を吸う。
勝負を決める。
そう覚悟した。
レッドオーガが棍棒を両手で構える。
全力の一撃。
避ければ後ろの岩壁ごと吹き飛ぶ。
「来い!」
蓮は逃げなかった。
距離が縮まる。
レッドオーガの口元が歪む。
勝利を確信した笑み。
そして。
棍棒が振り下ろされた。
「《反射》!」
黄金色の盾が輝く。
ガァァァァン!!
耳を裂く轟音。
衝撃が全身を駆け抜ける。
腕の骨が軋む。
だが。
今までで最も完璧な《反射》だった。
棍棒が大きく逸れる。
レッドオーガの身体が僅かに開く。
「今だぁぁぁっ!!」
蓮は踏み込んだ。
全手の力をを剣へ込める。
一気に懐へ。
レッドオーガも気付く。
だが遅い。
蓮は胸元へ潜り込んでいた。
剣を両手で握る。
狙うのは一点。
《探知》が示した胸部の一箇所
「おおおおおおおおっ!!」
渾身の突き。
ブスッ…
硬いが、だが止まらない。
全身の力を押し込む。
剣先が少しずつ食い込む。
レッドオーガが絶叫した。
「グォォォォォォォォッ!!」
棍棒を手放し、蓮を掴もうとする。
しかし蓮はさらに踏み込んだ。
「貫けぇぇぇぇっ!!」
次の瞬間。
レッドオーガの胸から魔力と血が溢れ出した。
蓮は直感する。
届いた。
レッドオーガの動きが止まる。
巨体が震える。
一歩。
二歩。
後退する。
黄金色の瞳から力が失われていく。
「グ……ォ……。」
やがて。
ズシィィン!!
巨大な身体が地面へ崩れ落ちた。
静寂。
洞窟内に水滴の音だけが響く。
蓮はその場に膝をついた。
「はぁ……はぁ……。」
息が上がる。
全身が重い。
腕も脚も悲鳴を上げていた。
だが。
勝った。
確かに勝った。
『討伐確認。』
探索者端末が電子音を鳴らす。
『レッドオーガの討伐を確認しました。』
その表示を見て、ようやく実感が湧いた。
Bレート魔物単独討伐。
紛れもない快挙だった。
「なんとか……なったな。」
苦笑しながら立ち上がる。
《探知》の熟練度が上がっていた。
《探知》Lv.3
探知範囲半径75メートルに拡大。
ターゲットを凝視することにより魔力の流れを感知可能。
「……?」
レッドオーガが座っていた場所。
その後ろ。
岩壁の陰。
微かな魔力反応。
蓮は慎重に近付いた。
そこには豪華に装飾された宝箱が一つ置かれていた。
「隠し通路なだけあるな…。」
レッドオーガは偶然いたわけではない。
この宝箱の番人だったのだろう。
蓮は周囲を確認してから蓋を開く。
ギィ……
中には一本の指輪と鍵が入っていた。
銀色の細い指輪。
中央には琥珀色の魔石が埋め込まれている。
見るからにアーティファクトだった。
「また鑑定かぁ。」
蓮は小さく笑う。
初めてのアーティファクト。
そして初めてのBレート魔物討伐。
第三ゲヘナ二日目にして、予想以上の成果だった。
《探知》は今も周囲を探り続けている。
その感覚は戦闘前よりも少しだけ鮮明になっていた。
長時間発動の効果か。
それとも死闘を潜り抜けた影響か。
確実に熟練度は上がっている。
蓮は指輪を収納し、レッドオーガの魔石を回収する。
そして隠し通路を振り返った。
「第三ゲヘナ……面白いな。」
危険だがその分だけ未知がある。
宝箱、隠し通路、強敵。
そしてまだ見ぬ最深部。
夏休みはまだ始まったばかり。
蓮は《探知》を維持したまま、協会に行くために帰路につく。
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