最大効率
前回のおさらい
初めての宝箱からパークブックを手に入れ、パーク《探知》を取得しました。
翌日。
夏の朝日が街を照らす中、蓮は再び第三ゲヘナの一層訪れていた。
昨日手に入れたばかりの新たな力。
パーク《探知》を試すためでもある。
昨日と同じ第一層。
蓮は深く息を吸うと、小さく呟いた。
「《探知》。」
その瞬間、自分を中心として目に見えない波紋のような感覚が広がった。
洞窟内へ意識が伸びていく。
(これが……。)
目で見ているわけではない。
しかし半径25メートルほどの範囲に、ぼんやりとした反応が浮かび上がる。
右前に小さな反応が二つ。
左奥には弱い魔力を持つ鉱石。
「面白い……。」
蓮は思わず感心した。
これまでなら角を曲がるたび警戒していた。
だが《探知》があれば、事前に何がいるのか大まかに把握できる。
「魔力消費もほとんど感じない…。」
端末で調べた通り、魔力消費がほとんどない。
魔力量Bの探索者が12時間程使っても戦闘に支障がほぼ無いぐらいの消費。
(だったら。)
蓮は小さく笑う。
(切る理由がないな。)
魔力量が多い自分だからこそできる方法。
《探知》を常時発動したまま生活し、熟練度を強引に伸ばす。
「しばらく付けっぱなしで行こう。」
蓮は洞窟の奥へ歩き始めた。
◇◇◇
《探知》のおかげで探索は昨日とは比べものにならないほど快適だった。
曲がり角の先。
天井に張り付く魔物。
細い通路で休む探索者。
それらがぼんやりとではあるが事前に分かる。
「右に魔物が一体……。」
反応を確認してから接近する。
現れたのはケイブバット。
討伐推奨レートDの大きめのコウモリだった。
蓮は《魔法盾》で突進を受け止め、そのまま一閃。
一撃で討伐を終える。
無駄な戦闘時間はほとんどなかった。
さらに三十分ほど歩く。
途中で遭遇したケイブスパイダーやストーンラットも危なげなく倒していく。
以前なら物陰から突然現れていた魔物も、《探知》のおかげで先手を取れる。
(便利すぎる。)
蓮は素直にそう思った。
戦闘だけではない。
距離は半径25メートルとはいえ、通路の分岐でも役立つ。
魔物が多い方向。
探索者が集まっている方向。
反応の少ない静かな道。
それらを感覚的に選びながら進めるため、無駄な遠回りも減っていた。
戦闘能力だけでは最深部へは辿り着けない。
安全な道を選び、危険を避け、効率よく探索する。
それも探索者の実力なのだ。
◇◇◇
数時間後。
蓮は小さな広間へ辿り着いた。
《探知》を維持したまま周囲を確認する。
(魔物はいない。)
代わりに、少し離れた場所から人の反応が四つ。
「パーティーか。」
しばらくすると、反対側の通路から四人組の探索者が現れた。
統一された装備から、同じクラン所属だと分かる。
「あれ、一人?」
リーダーらしき男性が驚いたように声を上げた。
「はい。」
「珍しいな。ソロか。」
「はい。」
「気を付けろよ。この先はゴブリン系の群れが住み着いてる。」
「ありがとうございます。」
短い情報交換だけを済ませ、お互い別方向へ進んでいく。
第三ゲヘナでは、こうしたやり取りも日常だった。
敵対する探索者は少ない。
必要最低限の情報を交換し、それぞれの目的地へ向かう。
そんな暗黙のルールが存在していた。
◇◇◇
さらに探索を続けること二時間。
《探知》を発動し続けていることで、少しずつ感覚が鋭くなっている気がした。
(……ん?)
一瞬だけ、壁の向こう側に微かな反応を感じる。
昨日なら気付かなかったほど弱い魔力。
蓮は足を止めた。
「気のせい……じゃない。」
壁へ近付く。
叩いてみると、一部分だけ音が違った。
コンコン。
軽い空洞音。
「隠し通路?」
慎重に壁を調べると、小さな突起を発見する。
押し込んだ瞬間。
ゴゴゴ……
岩壁がゆっくり横へ動き始めた。
「本当にあった。」
その先には細い通路が続いている。
《探知》がなければ、おそらく気付くことはなかっただろう。
蓮は思わず笑みを浮かべた。
「こういう場所もあるのか。」
第三ゲヘナ。
それは単なる戦闘の場ではない。
探索そのものが価値を持つゲヘナだった。
蓮は剣へ手を添える。
《探知》は今も休むことなく周囲を探り続けている。
(もっと熟練度を上げよう。)
(使い続ければ、きっともっと遠くまで分かるようになる。)
魔力量が人並みなら、常時発動など考えられない。
しかし、蓮の莫大な魔力ならそれが可能だった。
戦闘中も、休憩中も、帰還中も。
《探知》を切るつもりはない。
そうして無理やり熟練度を上げる。
それが蓮の《探知》の成長方法だった。
未知の洞窟を照らすライトの先へ、一歩ずつ足を踏み出す。
第三ゲヘナでの本格的な探索は、まだ始まったばかりだった。
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