宝箱
前回のおさらい
高坂、石坂ペアにダンジョン型ゲヘナの注意事項を教えてもらう。
ケイブセンチピードを倒した後。
蓮は周囲を警戒しながら、再び洞窟の奥へ歩き始めた。
第三ゲヘナでは、一つの戦闘が周囲の魔物を呼び寄せることも珍しくない。
足音を抑え、慎重に進んでいく。
すると、通路の先で何かが微かに光を反射した。
「……あれは?」
ライトを向ける。
岩陰に、木製の箱がひっそりと置かれていた。
金属で補強された古びた宝箱。
「宝箱だ……!」
蓮は思わず足を速めたが、すぐに立ち止まる。
(焦るな。)
高坂たちの言葉が頭をよぎる。
『宝箱だけじゃなく、人間にも気を付けろ。』
周囲を確認する。
魔物の気配はない。
罠らしき痕跡も見当たらない。
慎重に宝箱へ近付き、ゆっくりと蓋を開けた。
ギィ……
中に入っていたのは、一冊の薄い本だった。
表紙は深い茶色。
白色の文字で何かが書かれているが、蓮には読めない。
「もしかして※パークブック……?」
※パークブックとは、スキルとは別で新たに能力を取得出来る物。ランクの低いものから高いものまであり、鑑定をしないとパークが分からない。
蓮は本を手に取る。
見た目は普通の古書だが、手にした瞬間、微かな魔力を感じた。
(これが宝箱のアイテム……。)
協会で説明を受けた通り、第三ゲヘナの宝箱からは様々な物が出現する。
その中には、専門の鑑定士でなければ効果が分からない品も多い。
蓮はパークブックを丁寧に収納ポーチへしまった。
「今日は十分な収穫なんじゃないかな。」
第三ゲヘナへ入った初日だ。
無理をして奥へ進む必要はない。
蓮は端末で帰還ルートを確認し、来た道を引き返し始めた。
途中、小型の魔物と二度遭遇したが、《魔法盾》を使って危なげなく撃退し、そのまま入口まで戻る。
◇◇◇
探索者協会本部。
第三ゲヘナからの帰還し受付へ向かう。
「すみませーん!」
職員が蓮の持つ本に目を留めた。
「お待たせしました。それは…宝箱から出た物ですか?」
「はい。多分パークブックだと思うんですけど。」
「でしたら、鑑定室へご案内します。」
蓮は職員の後について歩き出した。
第三ゲヘナで初めて手に入れた宝。
その正体が、もうすぐ明らかになろうとしていた。
◇◇◇
鑑定室へ入ると、白衣姿の年配の鑑定士が蓮を迎えた。
「第三ゲヘナ産のパークブックですね。では、お預かりします。」
蓮は丁寧に本を差し出す。
鑑定士は専用の魔道具の上へパークブックを置き、静かに魔力を流し込んだ。
淡い青白い光が本を包み込む。
数秒後、表紙に刻まれていた読めなかった文字がゆっくりと浮かび上がった。
鑑定士は小さく頷く。
「鑑定完了しました。」
「どうでしたか?」
蓮が身を乗り出すと、鑑定士は穏やかに微笑んだ。
「これは《探知》のパークブックです。」
「《探知》……。」
「周囲に存在する魔物や人間、魔力反応などを感知できる能力です。熟練度を上げれば、探知範囲や精度も向上します。」
蓮は思わず目を見開いた。
「そんな能力が……。」
第三ゲヘナのように視界が悪く、曲がり角の多い場所では非常に有用な能力だ。
鑑定士は続ける。
「比較的安価かつ入手しやすい物ですが、人気の高いパークですね。特に探索を主とする探索者には重宝されています。習得しますか?」
蓮は迷わず頷いた。
「お願いします。」
鑑定士が本を手渡す。
「本を開いて魔法陣の所に手を置き、魔力を流してください。」
蓮が言われた通りにすると、本は柔らかな光を放ち始めた。
次の瞬間、本は光の粒となり、そのすべてが蓮の身体へ吸い込まれていく。
頭の中へ新たな知識が流れ込んだ。
――――――――――――
パーク《探知》を習得しました。
――――――――――――
蓮はゆっくりと目を開く。
「これが……《探知》。」
まだ使い方は感覚でしか分からない。
だが、新たな力を手に入れたことだけは確かだった。
鑑定士は満足そうに頷く。
「おめでとうございます。第三ゲヘナでの探索が、今まで以上に安全になるでしょう。」
蓮は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
第三ゲヘナで初めて手に入れた宝は、戦闘力ではなく”探索者”としての力を大きく高める、貴重な能力だった。
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