ダンジョン型ゲヘナ
前回のおさらい
第三ゲヘナへ行けるようになり、早速向かうことに。
第三ゲヘナへ足を踏み入れてから三十分。
洞窟内は静寂に包まれていた。
天井からは絶え間なく水滴が落ち、岩肌を伝う水が小さな音を立てている。
足元は湿って滑りやすい所や、ところどころには青白く発光する鉱石が壁に埋まっていた。
「思ったより視界が悪いな……。」
蓮は探索者用ライトを点灯させ、慎重に通路を進む。
端末には現在地が表示されているが、詳細な地図は存在しない。
第三ゲヘナは内部構造が定期的に変化するため、協会でも地図を作ることができないのだ。
(一本道……じゃない。)
少し進むと、通路は三方向へ分かれていた。
蓮は足元へしゃがみ込む。
地面には薄く足跡が残っていた。
「こっちの2つは最近誰かが通った跡か。」
一方、左側の通路には足跡が少ない。
(宝箱を探すなら、人があまり通らない道の方が可能性は高い。)
蓮は左の通路を選んだ。
◇◇◇
さらに二十分ほど進んだ頃だった。
カツン。
硬い靴音が洞窟内へ響く。
「……?」
蓮はすぐに剣へ手を添えた。
規則正しい足音。
やがて曲がり角から二人の探索者が姿を現した。
一人は大柄な男性。
巨大な戦斧を背負っている。
もう一人は小柄な女性で、腰には短剣を二本差していた。
男性が驚いたように目を丸くする。
「お? 学生か?こんなところで珍しいな。」
蓮は軽く頭を下げる。
「こんにちは。」
女性がこちらに目を向ける。
「……かっこいい子ね?」
「おいっ。」
男性はまた始まったと呟く。
「新人か?」
「はい。今年探索者になりました。」
「今年!?」
二人は顔を見合わせる。
「それで第三ゲヘナかよ。」
「最近の新人はすごいねぇ。」
男性は豪快に笑った。
「俺は高坂。Bレートだ。こっちは相棒の石坂。」
女性も軽く手を振る。
「同じくBレートよ。よろしくね。」
「神代です。僕もBレートです。」
簡単な自己紹介を交わす。
高坂は周囲を見回してから声を潜めた。
「一つ忠告だ。第三ゲヘナじゃ魔物より人間の方が怖い時もある。」
「え?」
「宝箱は早い者勝ちだからな。横取りを狙う探索者もゼロじゃない。」
美咲も真剣な表情で頷く。
「もちろん大半は普通の探索者だけど。人気のない場所では油断しない方がいいよ。」
蓮はその言葉を胸に刻んだ。
「ありがとうございます。」
「じゃあ、お互い生きて帰ろうぜ。」
そう言い残し、二人は別の通路へ消えていった。
◇◇◇
蓮は再び歩き始める。
第三ゲヘナには魔物だけではなく、多くの探索者も潜っている。
情報交換をする者。
協力して探索する者。
そして宝箱を巡って言い合う者。
第二ゲヘナまでとは違う世界だった。
その時。
ピクリ…
蓮は足を止める。
(魔物か…?)
気配は一つ。
ゆっくりと前方を見る。
岩陰から姿を現したのは、全長二メートルほどの巨大なムカデだった。
濃い紫色の外殻、無数の脚。
鋭い牙からは緑色の毒液が滴っている。
探索者端末が反応する。
『ケイブセンチピード』
『討伐推奨レート:D+』
「洞窟型らしい魔物だな。」
ケイブセンチピードは身体を波打たせながら高速で迫ってきた。
蓮は静かに剣を抜く。
「《魔法盾》!」
黄金色の盾が目の前へ展開される。
ガァンッ!
魔物は勢いよく盾へ激突した。
その瞬間、蓮は一歩踏み込み、剣を振るう。
ギィン!
しかし外殻は硬く浅い傷しか付かない。
「やっぱり硬いか…炎魔法が欲しくなるなぁ…」
だが、焦りはない。
第二ゲヘナでの経験が、確実に蓮を成長させていた。
第三ゲヘナでの最初の戦闘が、静かに幕を開けた。
◇◇◇
そして、この日を境に蓮は第三ゲヘナで多くの探索者と出会っていく。
パーティーで最深部を目指すベテラン。
宝箱だけを専門に探す探索者。
罠の解除を得意とする斥候。
クランで活動する探索者。
それぞれが異なる目的を持ち、この迷宮へ挑んでいた。
彼らとの出会いと経験は、蓮に「戦う力」だけでなく、「探索者として生き抜く力」を少しずつ教えていくことになる。
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