夏休み
前回のおさらい
Bレートになり出来ることが増える蓮。
数か月が過ぎた。
第一ゲヘナで発生した祠の事件は、表向きには「魔力異常」として処理され、人々の記憶から少しずつ薄れていった。
しかし、その裏では探索者協会による極秘調査が続けられていることを、蓮はまだ知らない。
◇◇◇
七月後半。
梅雨が明け、強い日差しが街を照らしていた。
蓮は学校生活と探索者活動を両立させながら、Bレート探索者として着実に実績を積み重ねていた。
放課後や休日になると、一条と二人で協会の依頼を受けることも増えた。
「第四層の魔力結晶採取、完了。」
「護衛任務終了。」
「討伐対象のグレートオーガ確認。」
第二ゲヘナ第四層、第五層。
以前なら立ち入ることさえ許されなかった場所でも、二人は息の合った連携で任務をこなしていく。
「右から来る!」
「《魔法盾》!」
黄金色の盾で魔物の突進を受け止め、その隙を一条が魔法で撃ち抜く。
一条 恵は魔法剣士で剣と魔法両方を得意とする。
スキルは《剣魔共鳴》
剣を媒体に魔法を詠唱する事もでき、詠唱時間を短縮、剣に魔法を付与など、近接戦闘中でも魔法を使用する事が可能だった。
自然と互いを信頼し背中を預けれるようになっていた。
協会職員からも、
「神代君と一条さんのコンビは安定しているね。」
そう言われるほどだった。
もちろん、翔太や夏鈴とも夏休み前まで変わらず学校生活を送り、四人で昼食を囲む日々も続いていた。
そんな穏やかな毎日を送りながらも、蓮は鍛錬だけは欠かさなかった。
《魔法盾》の扱いも以前より洗練され、《前方城壁》も必要な場面で迷いなく展開できるようになっていた。
◇◇◇
そして終業式。
「これで夏休みかぁ!」
翔太が大きく伸びをする。
「宿題終わる気がしない……。」
夏鈴が苦笑すると、教室に笑いが広がった。
一条は蓮へ視線を向ける。
「夏休みは探索?」
「うん。」
蓮は頷く。
「今のうちに経験を積みたい。」
「蓮君らしいね。」
一条は優しく笑った。
「でも、ちゃんと休む日も作るんだよ?」
「善処します。」
「善処じゃなくて約束。」
「……分かった。」
そんなやり取りに翔太たちは笑い声を上げた。
◇◇◇
夏休みに入って数日後。
探索者協会本部。
蓮は育成課へ呼び出されていた。
部屋へ入ると、育成課長が待っていた。
「神代君。」
「はい。」
育成課長は一枚の書類を机へ置く。
「この数か月の依頼実績を確認した。」
そこには討伐数、護衛任務、調査依頼などが細かく記載されている。
育成課長が微笑む。
「第二ゲヘナ第五層までの任務をすべて問題なく達成。」
「危険行動なし。任務成功率百パーセント。非常に優秀な成績です。」
蓮は静かに話を聞いていた。
「そこで。」
育成課長が腕を組む。
「神代蓮。第三ゲヘナへの入域許可を正式に認める。」
その言葉に蓮は目を見開いた。
「本当ですか?」
「ただし無理はしないように。第三ゲヘナは第二ゲヘナとは別物です。」
育成課長は続ける。
「内部は天然洞窟に近い構造で、視界も悪い。魔物のレートもばらばら…しかも、1ヶ月程度で内部の構造も変化します。見た目や魔物は殆ど変わりませんが道であったり下の階層に行くための階段の場所等、ランダムに変化します。その代わり…。」
一枚の写真が映し出される。
木製の箱。
金属で補強された古びた宝箱だった。
「第三ゲヘナでは、宝箱が確認されています。」
蓮は思わず身を乗り出した。
「宝箱……。」
「ええ。武器、防具、魔道具、魔力鉱石などなど…時には非常に希少な素材やアーティファクトが発見されることもあります。」
探索者の間では有名な話だった。
第三ゲヘナ以上は、討伐だけではなく探索そのものに価値がある。
蓮の胸が高鳴る。
「行ってみたいです。」
育成課長は笑った。
「そう言うと思いました。」
◇◇◇
数日後。
蓮は第三ゲヘナに入っていた。
「ここが……第三ゲヘナ。」
第二ゲヘナまでとは空気が違う。
湿った冷気。
岩肌から滴る水。
どこからともなく聞こえる水音。
蓮は静かに剣へ手を添えた。
「行こう。」
暗い洞窟へ足を踏み入れる。
その先には、まだ誰も見たことのない財宝と、新たな強敵たちが待ち受けている。
そして、この夏休み。
蓮は夏休みの半分以上を第三ゲヘナで過ごすことになる。
宝箱を求め、未知の洞窟を探索しながら…。
その過程で様々な探索者に出会う…
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