岩の魔物
前回のおさらい
激闘の末アーマードマンティスを撃破
アーマードマンティスとの戦闘から二十分ほど。
蓮は端末で現在地を確認しながら、慎重に岩場を進んでいた。
『第一目標地点まで 0・7キロ』
「もう少しだな……。」
先ほどの戦闘で体力と魔力は消耗しているものの、まだ余力は十分残っている。
腰のポーチから携帯用の魔力回復薬を取り出すことも考えたが、蓮は首を横に振った。
(まだ温存しておこう。)
本当に必要になる場面は、この先かもしれない。
岩場を抜けると、景色が少し変わった。
黒い岩山の間に細い渓谷のような道が続いている。
左右は切り立った崖。
逃げ場は少ない。
「こういう場所は……。」
言い終える前だった。
ゴロッ……。
頭上から小石が転がり落ちる。
「!」
反射的に見上げる。
その瞬間。
ドォンッ!!
巨大な影が崖の上から飛び降りた。
着地の衝撃で地面に亀裂が走る。
探索者端末が即座に反応した。
『ストーンゴーレム』
『討伐推奨レート:C+』
身長は三メートルほど。
全身が岩で構成された人型の魔物だった。
両腕は丸太のように太く、拳だけで人間ほどの大きさがある。
「またC+か……。」
蓮は静かに剣を抜いた。
ゴーレムは感情のない瞳で蓮を見下ろすと、ゆっくり右腕を振り上げる。
次の瞬間。
ブォンッ!!
巨大な拳が振り下ろされた。
「《魔法盾》!」
黄金色の盾が展開される。
ガァァンッ!!
鈍い衝撃音が渓谷へ響いた。
「重い……!」
ロックリザードともアーマードマンティスとも違う。
純粋な質量の暴力。
《魔法盾》が衝撃を吸収したとはいえ、足元の岩がひび割れていく。
(受け続けるのは危険だ。)
蓮はすぐ横へ飛び退いた。
直後、拳が地面へめり込み、大量の岩片が舞い上がる。
「はっ!」
その隙へ斬り込む。
剣はゴーレムの膝を狙った。
ガギィンッ!
しかし浅い傷しか付かない。
「硬い……!」
アーマードマンティス以上の防御力だった。
試験官は後方から冷静に分析する。
(どう攻略する……。)
ストーンゴーレムは耐久力こそ高いが、動きは決して速くない。
だが焦って攻めれば、あの拳の一撃で終わる。
蓮は距離を取りながら観察した。
(腕……。)
拳を振るうたび、肩から肘へかけて僅かに岩が軋む。
完全な一枚岩ではない。
関節が存在している。
「なら……。」
ゴーレムが再び突進してくる。
今度は両拳を同時に振り下ろした。
「《前方城壁》!」
黄金色の城壁が目前へ出現する。
ズドォォォン!!
轟音が鳴り響き、拳が城壁へ激突した。
巨大な衝撃で周囲の岩壁が震える。
だが城壁は崩れない。
その一瞬。
ゴーレムの両腕は城壁へ押し付けられ、完全に動きが止まった。
「そこだ!」
蓮は城壁の横を駆け抜け、一気に懐へ飛び込む。
狙いは右肩の関節。
「はあっ!」
三連撃。
同じ場所だけを連続で斬りつける。
ガキンッ!
四撃目で岩に亀裂が走った。
「効いてる!」
ゴーレムが腕を振り上げようとする。
しかし関節が傷付いたことで動きが僅かに遅れる。
蓮は逃さない。
《魔法盾》で左腕の薙ぎ払いを受け流し、その勢いを利用してさらに回り込む。
「おおおっ!」
渾身の斬撃。
バキィィッ!!
右腕の肩口から大きな亀裂が走った。
ゴーレムの腕がぐらりと傾く。
観覧室では思わず声が漏れる。
「関節を狙ったか!」
「また弱点を見抜いた!」
佐伯は満足そうに笑った。
「力任せじゃない。」
「観察して、考えて、最適解を選ぶ。」
「それが神代蓮の強さだ。」
一方の蓮は油断していなかった。
腕を一本壊しても、ゴーレムはまだ健在だ。
「まだ終わってない。」
剣を構え直す。
ストーンゴーレムも低く唸るような音を響かせながら、ゆっくりと残った左腕を持ち上げた。
『第一目標地点まで 0・5キロ』
端末の表示が更新される。
試験の目的地は、もうすぐそこだ。
しかし、その最後の道を守るかのように立ちはだかるストーンゴーレムとの決着は、まだついていなかった。
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