特例昇格試験
前回のおさらい
特例昇格試験の日がやって来ました。
それから三週間。
第一ゲヘナで発生した異変は、探索者協会によって極秘扱いとなった。
現場は一時的に封鎖されたものの、その後は新たな異常も確認されず、一般探索者への影響もなかったため、第一ゲヘナは一部区域を除いて通常どおり開放された。
しかし、協会内部では調査が続けられていた。
祠に何が祀られていたのか。
影の正体は何だったのか。
そして、何が持ち去られたのか。
どれも手掛かりはなく、調査は難航していた。
表向きには「原因不明の魔力異常」とだけ発表され、やがて世間の関心も薄れていく。
その裏で、大きな歯車は静かに動き始めていた。
◇◇◇
一方、蓮の日常は普段どおりに戻っていた。
学校へ通い、放課後と休日は協会で依頼をこなし、ゲヘナへ潜る。
一条とも学校で過ごす時間が増え、翔太や夏鈴を交えた四人で昼食を食べることもすっかり日常になっていた。
一条は時折、探索者としての助言をくれることもあり、そのおかげで蓮の戦い方は以前よりも洗練されつつあった。
会話を重ねるうちに、蓮も一条に対する警戒心はほとんどなくなっていた。
それでも、彼女が何かを隠していることだけは変わらない。
蓮は無理に聞こうとはしなかった。
いつか話してくれる日が来ると、どこかで信じていたからだ。
◇◇◇
特例昇格試験当日。
朝七時。
探索者協会本部。
玄関前には、多くの探索者や職員が集まっていた。
「今日が特例試験か。」
「受験者は一人だけらしいぞ。」
「新人でBレート試験なんて聞いたことがない。」
小さなざわめきが広がる。
その中心へ、一人の少年が歩いてくる。
神代蓮。
黒い戦闘服に身を包み、腰には愛用の剣。
表情に緊張はあるものの、その足取りはしっかりしていた。
「おはようございます。」
受付へ声を掛ける。
職員は笑顔で頷いた。
「神代蓮さんですね。」
「お待ちしておりました。」
受付を済ませると、職員が案内を始める。
「試験開始まで時間がありますので、控室へご案内します。」
蓮は静かに頷いた。
(いよいよか……。)
この日のために依頼を重ね、戦闘経験を積み、一条からも様々な助言を受けてきた。
絶対に合格したい。
そんな思いを胸に歩き出す。
その途中。
「蓮君。」
聞き慣れた声がした。
振り向くと、一条恵が立っていた。
今日は制服ではなく、探索者用の装備を身につけている。
「一条さん。」
「今日は試験だね。」
「うん。」
少し緊張したように笑う蓮。
そんな蓮を見て、一条は優しく微笑んだ。
「蓮君なら大丈夫。」
「今まで頑張ってきたことを、そのまま出せばいい。」
「ありがとう。」
その一言だけで、不思議と肩の力が抜けた。
「じゃあ、応援してる。」
一条は軽く手を振り、その場を離れていく。
蓮も深く息を吸い込み、控室へ向かった。
その頃。
協会本部の観覧室では、試験を見守るために数名の関係者が集まり始めていた。
佐伯剛志。育成課課長。
そして、日本有数のトップクランの関係者たち。
神代蓮が本当にBレートにふさわしい実力を持つのか。
その答えが、今日明らかになる。
◇◇◇
蓮は試験内容について説明を受けていた。
係の人が資料を机へ置く。
「神代君。」
「今回の試験だが、通常の昇格試験とは少し内容が違います。」
「違うんですか?」
「はい。」
資料には第二ゲヘナの簡易地図が載っていた。
「試験会場は第二ゲヘナ第三層。第三層までは協会管理のテレポートを使用していただきます。制限時間は三時間。課題は三つ。」
課長が指を折る。
「一つ目。指定地点まで到達すること。」
「二つ目。途中に出現する魔物を討伐すること。」
「三つ目。無事に帰還すること。」
蓮は資料へ目を落とす。
「単純……ですね。」
その言葉に係の人は苦笑した。
「そう思いますよね、しかし第二ゲヘナ第三層じゃ、それが一番難しいのです。」
係の人が続ける。
「今回は試験官が同行します。」
「ですが、基本的には手を出しません。命の危険がある場合のみ介入します。」
つまり実質、一人で攻略するということだ。
「最後に。」
係の人は穏やかに笑った。
「君なら十分合格できる実力はあると踏んでいます。ですが、慢心だけはしないでください。」
「はい。」
蓮は力強く返事をした。
いよいよ始まる。
新人としては前例のない、第二ゲヘナでの特例昇格試験。
そしてこの試験が、蓮をさらに大きな戦いへ導く第一歩となるのだった。
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