祠
前回のおさらい
人型の魔物は何かを見つける。
翌朝。
探索者協会本部は、朝早くから慌ただしい空気に包まれていた。
「第一調査班、現地へ到着しました!」
「周辺の魔力濃度、昨日より大幅に低下しています!」
報告を受けた幹部たちは顔を見合わせる。
「……低下した?」
「はい。昨夜確認された高濃度魔力反応は、ほぼ消失しています。」
「影の魔物は?」
「現在のところ発見できていません。」
会議室が静まり返った。
一晩で消えた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
「引き続き捜索を続行しろ。」
「何か痕跡が残っているはずだ。」
「了解。」
◇◇◇
第一ゲヘナ・東部。
数十名の調査班が森を捜索していた。
先頭を歩くのはBレート探索者数名と調査専門の職員。
「戦闘痕がある。」
木々は何本も薙ぎ倒され、地面には深い亀裂が走っている。
昨日、Cレート探索者たちが撤退した場所だった。
「血痕は?」
「ありません。」
「魔物の死骸もなし。」
「消滅したんでしょう。」
さらに奥へ進む。
周囲は異様なほど静かだった。
昨日まで逃げ惑っていた小型魔物たちも、少しずつ戻り始めている。
「魔力濃度、正常値に近づいています。」
「異常は収束したと見ていいか……。」
その時だった。
「隊長!」
後方の探索者が声を上げる。
「こっちです!」
全員が駆け寄る。
木々に覆われた小さな広場。
そこには、苔むした石造りの建物があった。
「これは……。」
「祠?」
長い年月放置されていたようで、屋根は崩れかけ、苔が壁を覆っている。
「第一ゲヘナに、こんな場所が……。」
協会の地図にも載っていない場所だった。
慎重に中へ入る。
室内は驚くほど静かだった。
中央には石の台座。
しかし。
「何もない。」
台座の上は空だった。
まるで何かが置かれていた跡だけが残っている。
石の表面には四角い窪み。
長年そこに何かが安置されていたことを示していた。
調査員がしゃがみ込み、慎重に確認する。
「埃の付き方が違います。」
「最近まで何かが置かれていました。」
「持ち去られた?」
「その可能性があります。」
別の職員が魔力測定器を取り出す。
数秒後。
ピッ……。
数値を見た職員の表情が変わる。
「隊長。この台座……。」
「昨日の異常魔力反応と同質の残留魔力を検出しました。」
「……!」
その場の全員が息を呑む。
つまり……
昨日の異変は、この祠と関係している可能性が高い。
「周囲を調べろ!何でもいい!痕跡を探せ!」
調査が始まる。
しかし見つかったのは、黒い粒子がわずかに残っていたことだけ。
足跡もない。
争った形跡もない。
まるで”何者か”が静かに目的だけを果たして立ち去ったようだった。
◇◇◇
同時刻。
探索者協会本部。
現場から送られてきた写真を見て話始める。
「祠か……。」
隣では育成課長も険しい表情を浮かべていた。
「何が置かれていたのか分かりますか?」
「いえ。」
役員は首を横に振る。
「だが、一つだけ言える事があります。」
写真に映る空の台座を見つめる。
「昨日現れた影は、探索者を襲うことが目的ではなくら最初から、この祠に来ることが目的だったと思われます。」
部屋が静まり返る。
育成課長がゆっくり口を開く。
「つまり……。目的を達成したから消えた、と。」
「そして問題は。」
「何を持って行ったか、誰も知らないことだ。」
第一ゲヘナの祠から失われた”何か”が、やがて日本中の探索者を巻き込む大きな事件へと繋がっていくことを。
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