測定終了
前回のおさらい
無事?に試験終了しました。
その紙面を見つめたまま、誰もすぐには言葉を出せなかった。
「……SSS?」
若い職員が思わず声を漏らす。
「模擬戦評価に“SSS”なんて項目は本来存在しないだろ。」
「通常はSまでだ。」
「それなのに……」
誰かが喉を鳴らす音だけが響く。
1人が資料から視線を外さず、静かに続けた。
「基準を超えてるんじゃない。」
「基準が“追いついていない”。」
その言葉に、室内の空気がさらに重くなる。
一方その頃、アリーナ。
試合を終えた蓮は剣を鞘に収めていた。
(終わった……のか?)
まだ実感がない。
ただ、体には確かに疲労が残っている。
Aレート探索者との打ち合いは、ブラックホーンウルフとは違う種類の消耗だった。
「神代。」
相良が近づいてくる。
「はい。」
「一つだけ言っておく。」
相良は少しだけ間を置いた。
「お前は“探索者としての戦い方”をまだ全部知らない。」
蓮は黙って聞く。
「だが…戦場で死なない動きだけは、最初からできてる。」
その言葉に蓮はわずかに目を見開いた。
「それは……褒め言葉ですか?」
「さあな。」
相良は軽く肩をすくめる。
「ただの事実だ。」
そう言い残し、背を向けた。
その様子を、観客席の最上段で見ている人物がいた。
フードを深く被った少女。
銀色の髪がわずかに覗く。
「……あれが。」
小さく呟く。
「神代蓮。」
彼女は試合開始からずっと、蓮の動きだけを見ていた。
Aレート探索者の一撃を真正面から受け止めた瞬間も。
攻防の中で“学習するように動きが変わっていった瞬間”も。
一度も目を逸らさずに。
「普通じゃない。」
それだけは確かだった。
だが同時に…
(危険、というより……)
彼女は少しだけ言葉を選ぶ。
(……“異質”)
そう表現するのが一番近かった。
アリーナでは試験官が声を上げる。
「本日の模擬戦闘試験はすべて終了!」
「受験者は控室へ移動してください!」
喧騒が戻る。
歓声とどよめきが混ざり合い、アリーナは徐々に日常の空気を取り戻していく。
だが、その中心にいた蓮だけは、まだ少しだけ現実感が戻っていなかった。
(……終わった)
そう思っても、体の奥に残る緊張が抜けない。
Aレート探索者との打ち合い。
剣を握る手に、わずかな痺れが残っている。
その時だった。
「神代蓮。」
背後から声がかかる。
振り返ると、佐伯が立っていた。
いつもの軽い調子ではない。
「お疲れさん。」
「……はい。」
蓮は短く返す。
佐伯はしばらく蓮を見て、それから視線を外した。
「結果は上出来どころじゃない。正直、想定のさらに上だ。」
「……そうなんですか?」
蓮は自分の実感のなさに困惑する。
佐伯は苦笑した。
「お前はまだ“自分が何をやったか”を理解してない顔だな。」
そう言って、端末を軽く叩く。
「まあいい。そのうち嫌でも分かる。」
その言葉だけが妙に引っかかった。
◇ ◇ ◇
一方、観客席最上段。
フードの少女は、まだその場を動いていなかった。
喧騒の中でも、彼女の周囲だけが妙に静かに見える。
(……終わった)
そう呟きながらも、視線はずっと一人を追っていた。
神代蓮。
Aレート探索者と互角に近い戦いをした新人。
いや、もはや“新人”という枠で語るには無理がある存在。
彼女は小さく息を吐く。
「彼ならきっと……。」
彼女はゆっくりと席を立つ。
アリーナの出口へ向かいながら、最後にもう一度だけ振り返った。
そこにはもう、蓮の姿は見えない。
それでも。
「これからが楽しみね。」
小さくそう言って、少女は人混みに消えていく。
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