実力測定#1
前回のおさらい
町中でニュースが話題となりました。
数日後。
放課後の教室。
「神代くん。」
担任に呼び止められた蓮は職員室へ向かった。
「探索者協会から書類が届いている。」
差し出された封筒には、協会本部の紋章。
中には実力測定の案内が入っていた。
日時:今週土曜日
場所:探索者協会本部・第一訓練棟
測定項目は細かく記載されている。
・レベル測定
・身体能力測定
・魔力量測定
・スキル解析
・模擬戦闘試験
蓮は最後の項目で手が止まった。
「模擬戦……。」
ブラックホーンウルフとの戦い以来、誰かと戦う機会はなかった。
自分が本当に強くなったのか。
それとも、あれは奇跡だったのか。
確かめる時が来た。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
探索者協会本部。
新人育成課では実力測定の準備が進められていた。
「見学希望クランは?」
「現在十五クランです。」
「また増えたのか。」
職員がため息をつく。
Sレートクランだけで4つ。
Aレートクランも多数。
通常なら新人の測定にここまで集まることはない。
「協会長にも報告済みです。」
「了解。」
「ただし本人には見学者の件は伏せておいてください。」
「余計なプレッシャーは与えたくありませんから。」
「承知しました。」
◇ ◇ ◇
一方その頃。
都内のある鍛冶工房。
カン、カン、と金属を打つ音が響く。
蓮は祖父から譲り受けた剣を修理してもらうため、この工房を訪れていた。
年配の鍛冶師は剣を見るなり眉をひそめる。
「ずいぶん派手にやったな。」
「はい。」
「魔物か。」
蓮は少し迷ったが頷く。
鍛冶師は欠けた刃を指でなぞる。
「……普通の魔物じゃない。」
「え?」
「この傷は硬い外殻を何度も斬った跡だ。」
「この剣、よく折れなかった。」
蓮は改めて祖父の剣を見つめた。
「祖父が使っていた剣なんです。」
鍛冶師は少し驚いたように笑う。
「なるほど。」
「持ち主に似て、ずいぶん頑丈だ。」
「三日預かる。」
「しっかり直してやる。」
「お願いします。」
蓮は深く頭を下げた。
工房を出た蓮は空を見上げる。
夕焼けが街を赤く染めている。
(土曜日か。)
(今の自分がどこまで通用するのか。)
胸の奥で、不安と期待が入り混じる。
誰も知らない。
その実力測定が、日本中の探索者たちを驚かせる一日になることを。
土曜日の午前八時。
探索者協会本部。
普段は関係者しか立ち入れない本部だが、この日は新人実力測定の日ということもあり、多くの新人探索者が集まっていた。
「緊張するな……。」
「今年は受験者が多いらしいぞ。」
「Sレートクランの人も来るって噂だ。」
あちこちでそんな声が聞こえる。
蓮は受付で身分証を提示した。
「神代蓮さんですね。」
受付の女性は微笑みながらカードキーを渡す。
「こちらが受験証になります。」
「ありがとうございます。」
「測定は第二訓練棟で行いますので、案内表示に従ってお進みください。」
蓮は頭を下げ、その場を後にした。
第二訓練棟。
天井の高い広大な施設には、様々な測定機器が並んでいた。
魔力量測定装置。
身体能力測定レーン。
模擬戦用アリーナ。
新人たちは興味深そうに辺りを見回している。
「すごい……。」
蓮も思わず声を漏らした。
その時だった。
「神代君。」
聞き覚えのある声に振り向く。
「佐伯さん。」
そこには《グランツ》の佐伯が立っていた。
「今日は立会人として来ている。」
「よろしくお願いします。」
「そんなに固くなるな。」
佐伯は笑いながら蓮の肩を軽く叩いた。
「今日は普段通りでいい。」
「はい。」
「それと。」
佐伯は小声になる。
「見学席は気にするな。」
「え?」
「測定だけに集中しろ。」
それだけ言うと、佐伯はスタッフエリアへ戻っていった。
(見学席?)
蓮は首を傾げる。
午前九時。
「これより新人探索者実力測定を開始します。」
館内放送が響く。
「最初はレベル測定です。」
受験者たちは順番に呼ばれていく。
水晶のような装置へ手をかざすだけの簡単な測定だった。
「レベル6。」
「レベル8。」
「レベル10。」
平均は6~8程度。
10を超えるだけでも周囲から感嘆の声が上がる。
「すげぇ……。」
「新人探索者でも上位並みじゃないか。」
そんな中、係員が名前を呼んだ。
「神代蓮さん。」
蓮は静かに前へ出る。
深呼吸を一つ。
水晶へ右手を置いた。
淡い光が広がる。
測定装置が静かに起動した。
『測定中……』
館内が静まり返る。
数秒後。
ピピッ。
『レベル76』
表示された数字を見た測定員が目を見開いた。
「え……?」
思わず声が漏れる。
隣の職員ものぞき込み、そのまま固まった。
「どうした?」
責任者が近づく。
画面を見る。
そして一瞬だけ表情が変わった。
しかしすぐに平静を装う。
「……装置の誤作動かもしれない。」
「もう一度測定します。」
ざわつく受験者たち。
蓮本人も戸惑っていた。
(誤作動……?)
何が表示されたのか、自分からは見えない。
職員たちは小声で話し合う。
「あり得ない数値です。」
「昨日、装置の点検は?」
「異常ありません。」
「予備機を用意してください。」
蓮は別の測定器へ案内された。
再び手をかざす。
『測定中……』
今度は数秒で結果が表示された。
それを見た責任者はゆっくりと息を吐く。
「……同じ数値か。」
周囲にはまだ結果は公表されない。
責任者はマイクを持つ。
「神代蓮さんのレベルは、他の測定項目と合わせて後ほど正式に発表します。」
その一言で場はさらにざわついた。
「何だよ。」
「そんなこと今まであったか?」
「初めて見たぞ。」
蓮だけが理由も分からず首をかしげていた。
一方、スタッフ専用通路では佐伯が責任者から小さく耳打ちされる。
その瞬間、普段冷静な佐伯の目がわずかに見開かれた。
「……本当か?」
「はい。二台とも同じ結果です。」
佐伯はガラス越しに蓮を見る。
(ブラックホーンウルフを倒したのは、やはり偶然じゃなかったか。)
しかし、この時点ではまだ誰も、神代蓮の本当の実力には気付いていなかった。
次に行われる身体能力測定で、その評価はさらに大きく揺れ動くことになる。
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