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実力測定前夜

前回のおさらい

実力測定をすることになりました。

「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

母と美咲に見送られ、蓮は学校へ向かった。

住宅街を抜け、大通りへ出る。

すると、街中の大型モニターでは昨日のニュースが繰り返し流されていた。

『第一ゲヘナで確認された特殊個体ブラックホーンウルフを何者かが単独討伐』

『探索者協会は討伐者の氏名を非公開としています』

道行く人々もその話題でもちきりだった。

「単独討伐なんて本当にいるんだな。」

「ベテランの探索者でも厳しいって聞いたぞ。」

「どこのクラン所属なんだろ。」

蓮は帽子を少し深く被る。

(俺だなんて、誰も思わないよな。)

そう自分に言い聞かせながら学校へ向かった。


◇◇◇


教室。

「神代、おはよう!」

「お、おはよう。」

友人の大輝が駆け寄ってくる。

「昨日ニュース見たか!?」

「見たけど……。」

「やばすぎだろ!特殊個体を倒した奴!」

「日本中で話題だぞ!」

「そうだね。」

蓮は苦笑するしかなかった。

その時。

ガラッ。

担任教師が教室へ入ってきた。

「席につけー。」

ホームルームが始まる。

「さて、お前たちもニュースは見ただろう。」

教室がざわつく。

「探索者を目指している者も多いと思うが、一つだけ言っておく。」

教師は真剣な表情になった。

「命を懸ける仕事だ。」

「憧れだけで飛び込むな。」

教室は静まり返る。

蓮も自然と拳を握っていた。

(本当にそうだ。)

死ぬかもしれなかった。

一歩を間違えていたら、自分は今ここにはいない。


◇◇◇


放課後。

蓮は一人で剣道場の裏にあるトレーニングスペースへ向かった。

祖父から教わった基礎の型を繰り返す。

一振り、二振り、三振り。

ブラックホーンウルフとの戦いで刃こぼれした剣は、以前よりも重く感じた。

「……。」

剣先を見つめる。

欠けた刃。

無数の傷。

祖父と過ごした日々が思い出される。

『剣は道具じゃない。命を預ける相棒だ。』

「じいちゃん……。」

静かに剣を鞘へ納めた。

(修理しないと駄目だな。)


◇◇◇


その夜。

探索者協会本部。

巨大な会議室では、一枚の資料がスクリーンに映し出されていた。


『対象:神代蓮』

『年齢:18歳』

『探索歴:初日』

『討伐記録:ブラックホーンウルフ(特殊個体)』


部屋に集まっているのは、日本屈指のクランマスターたち。

その空気は重い。

「本当に新人か?」

一人の男が呟く。

「協会の調査では間違いありません。」

職員が答える。

「スキルは?」

「現時点では不明です。」

「不明?」

「戦闘映像が途中から消失しています。」

会議室がざわつく。

「カメラが壊れたのか?」

「いえ。」

職員は首を横に振る。

「ブラックホーンウルフが進化した直後から、すべての映像がノイズに覆われました。」

「残っているのは討伐後の映像だけです。」

スクリーンには、血だまりの中に立つ蓮の後ろ姿が映る。

誰も言葉を発しない。

やがて、一人の老人が静かに口を開いた。

「もし本当に一人で倒したのなら。」

その一言だけで、全員が続きを悟った。

「日本の勢力図が変わる可能性がある。」

誰も否定しなかった。


◇◇◇


同じ頃。

イギリス郊外。

立ち入り禁止区域。

そこには、一際巨大な黒い裂け目が存在していた。

周囲には幾重もの結界。

そして武装した探索者たちが警戒に当たっている。

その最奥。

闇の中で、一つの赤い瞳がゆっくりと開いた。

「…………」

低く、不気味な声が響く。

地面が震えた。

警報装置が一斉に鳴り響く。

「反応あり!」

「ゲート内部で高エネルギー反応!」

「レベル測定不能!」

オペレーターたちが叫ぶ。

その場にいた指揮官の顔色が変わった。

「まさか……。」

モニターには、見たこともない反応が表示されていた。


《危険度:測定不能》


そして、その黒い裂け目の奥で、何かがゆっくりと笑った。

「……ようやく、目覚めるか。」

その声を聞いた者は、誰一人としていなかった。

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