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第2話 コレ、どこへ積めばいいんだ?


 オーガは一体でも強敵である。


 それが群れとなっているのは並ならぬ脅威であるし、時おり里に下りてはいくつもの街や国を滅ぼしてきたという。


「うらあああ!」


 成人男性の二倍はあろうかというオーガの巨体へ、俺は斬撃を繰り出した。


 溶けかかったバターへナイフを入れるような感触。


 敵の分厚い胴体が真っ二つに分かれる。


「やった! ジード!」


「……なんだ。まだまだやるじゃないか」


 ネイルとレイがそう声を上げる。


「へへへへ」


 俺は一つ息を吐くと、トントンっと右脚で地面を踏んだ。


 痛みはない。


 まるで十代の時のように身体が軽かった。


「どうだゼダ、心配ないだろ?」


「……」


 そう小声で言うが、ゼダはびんを耳にかけて目を伏せた。


 そんな彼女を見ていると、さっきのことが夢や幻覚だったのではと疑われてくる。


 クエストは順調だった。


 黒魔法使いのネイルが紫の火炎で全体ダメージを与え、リーダーのレイが剣と魔法のオールラウンドな働きを見せ、白魔法使いのゼダが回復やバフで援護する。


 そして、俺は最前衛を駆け、敵にトドメを刺す。


 いいパーティだ。


 心からそう思う。


 ――ゴルアアアア……!


 そこで異質な咆哮が響いた。


 振り向くと、そこには通常のオーガの二倍、人間の四倍はあろうかという巨大な鬼がそびえ立っていた。


「オーガ・キングだ! 油断するな!」


 レイがそう言うと、俺たちはいつもの陣形に散らばった。


 ネイルの魔法攻撃から始まり、レイは中距離で隙を伺う。


 そして俺は、ゼダのバフを受けながら、接近戦を挑む。


「チッ、デカすぎだワ、テメーは……」


 俺の剣はヤツの脚部分までしか届かない。


 それほど規格外のサイズだが、その上、動きも俊敏なものだから厄介だ。


 ――どごおおッん!


 巨大な拳が隕石のように上空から幾度となく振り下ろされる。


 だが、今日の俺は調子がいい。


 刹那の瞬発力によって敵の攻撃をすべて避け、巨大な脛や太もも辺りへチクチクと斬撃を当てていく。


「いいぞ……こうでなくっちゃ」


 決して楽な相手ではない。


 しかし、己の持てる能力、集中力を、一瞬一瞬に燃やしていく。


 敵が強ければ強いほど、戦いはおもしろい。


「今よ、ジード……!」


 そんな時、ゼダが一日に一回だけ使えるとっておきのバフをくれた。


 白魔法・女神の祝福。


 彼女のメイスが生成した魔法陣から輝く魔力が降り注ぐ。


 数秒間ではあるが、これで俺は常時の三倍の運動能力を発揮できる。


「おおおお!」


 俺は敵の鉄槌をよけると、一瞬で高く跳躍した。


 それで、ようやくオーガ・キングの瞳の無い眼と、目があう。


 身をひるがえし、ヤツのこめかみへ向かって、思いっきり剣を振るった。


 ――ゴル、ルアアアア……


 鋼鉄よりも硬いヤツの頭蓋骨は斬れなかったものの、クリーンヒットだ。


 オーガ・キングはよろめき、膝をついてしまった。


「よし、トドメだ!」


「待って、ジード! もう十分よ! あとはみんなに任せて!」


 そう制止するゼダの声が背後から聞こえていたが、頭には入らなかった。


 バフはもう切れていたが、俺は闘争本能のまま前へ走り、一撃、二撃、三撃……と繰り出す。


「……はあ、はあ、はあ」


 とうとう、オーガ・キングは倒れた。


「ジード! やっぱスゴイや!」


「うん、まだまだ頼りにできそうだな!」


 ネイルとレイがそう言って駆け寄ってくる。


 充実感の中、仲間たちへ振り返った時。


 ぞく……


 背筋に悪寒が走り、右膝から全身へ響くような衝撃が起こった。


 それはまるで、約束の呪いのよう。


 遠くに金属の音がむなしく聞こえる。


 手から剣がこぼれ落ちる音だ。


「……ジード?」


 ゼダの不安そうな瞳と目が合う。


 ご、ごめんな。


 でも、これで終わりだ。


 俺の夢は……


 そう言いかけた時、激痛に俺の意識は黒く塗りつぶされていくのだった。



 ◇



 結局、俺は冒険者を引退することになった。


 聞くと、痛みで絶命する可能性もあったほど俺の膝は深刻なダメージを負っていたらしい。


 いっそのこと、あの時に死んでいたら俺の人生は充足感の高みのまま終われていたかもしれない……なんてことを考えることもあった。


「ジード、痛む?」


「……ああ」


「沈痛魔法をかけるわ。横になって」


 ゼダは、ケガの治療の力になりたいと言って、パーティを出て行く俺についてきた。


 彼女にはまだまだ冒険者としての未来があった。


 俺はなんとか思いとどまらせようと説得したのだが、その意志は岩よりも硬く、ゼダは頑として聞かなかった。


「男はバカな生き物だけど、女は女なりにバカなもんだよな」


「うふふ、いいじゃない」


 ゼダは少し笑いながら言った。


「そうじゃなきゃ、生きている甲斐がないわ」


 俺とゼダは、教会都市アリアという大きな街に、アパートを一つ借りて住んだ。


 当初は、杖がなければ移動ができない状態であったが、ゼダの治療と介助のおかげもあって、なんとか日常生活で歩くことはできるようになった。


 ただ、膝のケガの構造上、もう二度と走ることはできないらしい。


「……なんか別の仕事を探さねえとな」


「いいのよ。ゆっくりで」


 死に損なってしまったのだから、一生懸命に生きるより仕方ない。


 俺はアリアの街の工事現場のオヤジに「ここで働かせてくれ」と声をかけた。


「続くもんかねえ、アンタみたいな若いのが」


「そこまで若くはない。今25歳だ」


 そう答えると、オヤジは「まあ、一応面接してやるからついて来い」と歩いて行った。


「仕事はキツイし、給料も高くないが、それでもいいのか?」


「ああ。他にやれそうなこともない。ケガ持ちだが力仕事には自信があるからな」


「そんなふうには見えんがねえ」


 その時だ。


 ふと、ロープで巻かれた長方形の石材に接続された、大きな木製の道具が目に入った。


「これは何だ?」


「ああ。これは石材を積み上げる重機だよ。ここは新しい大聖堂になるからな。石材を山ほど積み上げなきゃいけない」


 そう言われても俺にはちょっと理解ができなかった。


「だからと言って、何故あんな道具が必要なんだ? 普通に持って積み上げればいいじゃないか」


「む、バカ言え。あんな石材持ち上げようとしたら7人は必要だ。ああして重機のハンドルを回して持ち上げた方が効率的なんだよ」


 俺は首をかしげた。


 ひょっとしたら特別重い鉱物なんだろうか?


 そう思って現場に転がっていた石材――長さで人間一人分くらい――を持ってみた。


「別にそうでもないな」


「なッ……!」


 オヤジは何故か口をパクパクさせている。


「コレ、どこへ積めばいいんだ?」


 こうして俺は建築現場で働くことになった。


【※】

パワーだけじゃなくて本格的に剣技が建築に活きてくるのは次回くらいからデス。


少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、★★★★★評価やブックマークで応援いただけると励みになります。

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