表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/290

◆12 お姫様の幼馴染との遭遇

 応接室は、奥屋敷から廊下を伝った先、王宮本邸の外延にあった。

 護衛や近衛の部屋がある地域だ。

 ターニャ王女殿下にとって、外部からの男性来客と面会出来る唯一の場所ーーそれが応接室であった。


 ターニャ姫は広大な応接室に入ると、応接室付きの侍女に案内させ、白鳥雛(ワタシ)を革張りの大型ソファに勧める。

 結局、ワタシはターニャ姫と並んで座る格好になった。

 王女殿下と同列に並ぶーープライベートならではの破格な扱いだ。


 そこへ何人もの従者を連れて、一人の男性が応接室へと入って来た。

 紺色と青の布地に金銀の刺繍が施された、小綺麗な服装をしている。

 いかにも高貴な貴族家のご子息といった身なりだ。


 彼の姿を認めると、ターニャ姫は即座に立ち上がり、ワタシに明るい表情を向けた。


「紹介致します。私の幼馴染です」


 姫様の紹介を受け、青年男性は胸に手を当て、深々と頭を下げる。


「初めまして。異世界からの魔法使い様。

 私の名前はレオナルド・フォン・スフォルトと申します」


 青年は輝くような金色の髪の毛を少し()き分け、(みどり)の瞳に光を宿す。

 体躯はスラっとしているが、腕廻りを見ると、かなりの筋肉量であることが(うかが)われる。

 いわゆる、細マッチョというやつだ。


 レオナルドと称した青年は、綺麗な手を出し、ワタシに握手を求める。

 ワタシは呆然と青年の顔に見惚れたまま、オズオズと手を差し出す。

 青年に強く手を握られ、ワタシはポッと頬を赤らめた。


(ヤバッ。なに、この素敵な男性ーー。

 歌舞伎町にいたら、立ってるだけでNo. 1ホストじゃね!?)


 ところが、その見解は、あっという間に(くつがえ)されることになる。


 眼前の金髪美青年が言葉を発したとたん、ワタシは失望してしまった。

 レオナルドの話し方や振る舞いが、その見事な容姿に合っていないと思ったからだ。


「ああ、なんだか照れてしまうなぁ。

 異世界の女性と握手するなんてーーいや、握手でよかったのかな、挨拶としては……そもそも文化が違うんだからーー」


 グズグズとして、それでいてどこか、のんびりとした口調ーーとにかく、間伸びしたような言葉使いに感じられた。

 レオナルドの話し方には、ハキハキさが足りない。

 ワタシはあまりのガッカリさで憮然とし、ぶっきらぼうに応えた。


「いえ、どうでもいいですよ。挨拶なんて」


 先に着席したターニャ姫が、手招きして、再びワタシに隣席への着座を勧める。


「お掛けくださいな、ヒナさん」


「ありがとうございます」


 お辞儀をして着席したワタシは、さらに不機嫌になった。

 女性二人が席に就こうとしていたのに、レオナルドはボサっと突っ立ったままだったのだ。

 彼の後方にはお付きの執事が二人いて、彼らが椅子を引いてから、自分自身が着座するだけ。

 男性なのに、女性をエスコートするつもりがまったくなかった。

 ワタシはともかく、お隣のお姫様は王女殿下なのだ。

 この男がどれ程の身分かは知らないが、王女様より上ってことはないだろう。


(せっかくのイケメンなのに、気が()かないーー)


 文句ありげなワタシの表情に気付いたとみえて、今さらながら、レオナルドは弁明を始めた。

 しかも、独りで勝手にティーカップに手を遣って、ゴクゴクと飲み干してからである。


「ああ、すいません。席をお勧めしなくてはいけなかったですね。

 でも、この王宮ではいつも客の側でして……それに、姫様以外の女性と、この場で接するのは初めてでして」


 言い訳してからカップを置き、両手の指を絡ませるようにして細かく動かす。

 なんだかソワソワした感じで、落ち着きがない。


 ワタシの隣にいるターニャ姫は、苦笑いを浮かべて取り成す。


「彼ったら、異世界からの召喚が成功したら、その方にぜひ、会ってみたいと言い出しまして。

 で、レオナルド様、ヒナさんの感想はいかが?

 素敵な方でしょ?」


 姫から話を振られ、レオナルドは頭を()く。


「いやあ、なんだか普通の方でしたね。

 もっと奇抜なーーこちらの人間とは全く違うヒトが現れるんじゃないか、と……」


 さらにワタシは、頬を(ふく)らます。


(なに、コイツ。すっごく失礼。

 人をヘンな動物かなにかのように……。

 悪かったわね、化け物じみてなくて)


 フンッと、鼻息荒く、ソッポを向きたい気分だ。

 少なくとも、面と向かって、女性に向けて言って良いセリフではない。

 レオナルド付きの従者が紅茶を淹れてくれたものの、とてもカップを傾ける気分になれなかった。


「それは残念。

 ご期待に添えられなくって」


 せいぜい嫌味っぽく受け流したが、レオナルドはまるで気にする様子がない。

 ジロジロとワタシの全身を見回してから、訥々(とつとつ)と語り続けた。


「あ、あなたのような黒髪も、黄味がかった肌の色も、なかなか美しいですね。

 そういえば、稀代の名工タマスも濃い色の肌であったと……」


(タマス? 誰、それ? 知らない)


 そう思って、隣の姫を見遣(みや)ると、彼女はレオナルドの方に微笑みかけ、軽く(たしな)めた。


「あら、名工タマスと言っても、ヒナさんはご存知ないわ。

 彼女は異世界からいらしたのよ」


「あ、ああ、そ、そうですね。

 タマスというのは、人形師でしてね。

 これなど、彼の作品の一つです」


 レオナルドは、慣れた様子で後方に向けて顎をしゃくると、老従者が進み出る。

 そして、()げ持っていたケースを、テーブルに置いて開ける。

 ケースの中を(のぞ)き見ると、一体の白い可愛らしい人形があった。

 赤いクッションが何重にも折重ねられていて、その中に白いドレスを着た少女人形が、寝かせられていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ