◆11 お姫様の婚姻なんだし、めでたいことじゃないの?
ドミニク=スフォルト王国の王女、ターニャ・テラ・ドミニク・ランブルトに仕える侍女たちはみな、我慢していた。自分たちの主人が、政治的な争いに巻き込まれ、身動きが取れなくなっている状況に、今まで耐えてきた。
が、事情を知らない〈魔法使いヒナ〉に説明するという形で、憂さ晴らしがしたかったのかもしれない。
「姫様、お可哀想なんですよ。道具にされてるんです。結婚の」
「王位継承者第一位の姫様だというのに、政略結婚から逃れられないなんて……」
「姫様のお気持ちもございますのに」
「女って損ですよね。
領地経営も見事になさっておいでなのに、男性代官の成果にされる。
姫様にだって、魔法の力は誰にも負けないくらいあるのに。
どうにかならないのかしら」
自分の状況のせいで、侍女たちが想像以上に憤懣を募らせていたことを知り、ターニャ王女は驚いて両手を広げた。
「言わないで頂戴。これも王家の女の務めですよ。
国を守るためですもの……」
首を傾げるワタシに対し、侍女長クレアが話の内容をまとめてくれた。
「王権代理の王妃ドロレス様が、隣国デミアス公国から、ターニャ王女殿下のお婿さんを呼び寄せようと、それはそれは執拗になさっておいででした。
それをなんとかお断りできたと思ったら、今度は病床にあられる父王様が、いきなり仰せになられたのです。急いで国内貴族から、お相手を探しなさい、とーー。
現在、わが国は、お隣の国と険悪な関係になっておりましてね。
特に、外交関係が不自由になっておりまして……」
結果、王女殿下としては初めて、外国の王族や高位貴族から婿を取らない方針となりそうだという。
王国始まって以来の慣例破りなため、口さがない貴族連中は、
「諸外国に示しがつかない」
「王国の権威が失墜する」
などと、大袈裟に騒ぎ立てることが、侍女たちには我慢ならないらしい。
もっとも、国内貴族から婿を取るということ自体は、侍女たち全員が賛成している。
とにかく、隣国デミアス公国からの干渉を厭うているようだった。
彼女たちが、銘々に主人を慮って、発言を重ねていく。
「あら。でも、国内でお婿さんをお探しになるのは、姫様本来のお望み通りではなくて?」
「それは誰もが承知しておりますわ。
でも、長年の慣例を破るのは問題あるって、王妃様が色々と……」
「そうそう。
それに、ターニャ姫様が婚姻を結ぶのは、少々早すぎませんこと?」
婚約を交わすだけなら幼少時からよくあることだけど、今回の婚約は諸所の政治事情から、事実上の結婚を意味するため、政局を睨む連中たちが水面下で色々と動いているらしい。
それでも、そうした事情を承知の上で、ターニャ姫はみなの議論を打ち切った。
「私はこれでも王家唯一の血筋ですもの。
王国のためなら、いかなる婚姻も拒みませんわ。
それに、王様のお願いなんですもの。
見事、叶えてみせます」
瞬時に議論は停止し、侍女長クレアは急に話題を変えた。
「たしかに、王様が王妃様を抑え、意向をお示しになったのは、久しぶりですわね」
「ええ。王様がご健在で、安心しました」
「ほんとうに……」
でも、みなの表情は、そこまで明るいものではない。
姫様の父王サローニア三世が、本当に健在かどうかは疑わしいーーそれが正直なところらしい。
侍女長クレアは厳しい顔つきでつぶやいた。
「切羽詰まった、厳しい状況です。
婚姻のお相手は国内貴族に限る、と厳命されましたので……」
それが不満な外国勢力ーー特に隣国デミアス公国ーーは、お姫様の婚礼に対して横槍を入れてくる可能性が高い、と誰もが思っていた。
何事も一筋縄ではいかないのが、政治である。
(お姫様の婚姻なんだし、めでたいことじゃないの?
ーーなんだか複雑で、可哀想。まじ、ヘコむわ)
ワタシは頬に手を当てて、どうすればお姫様が自由恋愛できるかを思案する。
が、なにも良いアイデアは浮かばない。
そんなとき、侍女長の許に下級侍女が駆け寄せて、連絡が入った。
その内容を、クレアは姫様の耳元で囁いた。
「レオナルド様が、応接室にいらしゃっております」
ターニャ姫は、パアッと明るい表情になった。
「あら。お早いお着きね。
彼もきっと、異世界からの来訪者に興味があるのね」
姫様は立ち上がると、対面に座るワタシに向かって、誘いかけた。
「さあ、一緒に来てくださいますね、ヒナ様。
私の幼馴染を紹介させてください」




