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(ラズーンも、老いた平原竜なんだろうか)
ユーノは抱えた腕の胸の中で思う。
その終末を誰かが見届けることが必要で、だからこそ『銀の王族』を呼び集めているのだろうか。
(生き長らえるためではなく、命の終わりを知らせるために)
この動乱は、そういうことなのだろうか。
「ミダス公は…何と?」
ユーノは改めて問い直した。
四大公はおそらく世界の誰よりもラズーンの中に長く居て、ラズーンの有様を見て来たはずだ。
その1人が、今回のこの事件をどのように考えているのか知りたかった。
「眠っていたら、ふいに斬りつけられた、と」
シャイラが悔しげに答えた。
(平穏の眠りについていて、間近に迫る危機に気づかなかった)
それは何と、今のラズーンに、そして世界にたゆたう無関心さと似てることだろう。
(セレドだけじゃないのか、眠っているのは)
この世界の統合府の中にあっても、何が起こっているのか知らない者は、きっと大勢居るのだろう。だが、その1人が四大公だと言うのは。
(危うすぎる)
ユーノは眉を寄せた。
シャイラが気を取り直したように続ける。
「直前に気づかれたようですが、避ける間もなく、悲鳴を上げるのが精一杯だったとのことです。賊の顔はほとんど覚えておられず、けれど、似てるとすれば、やはりアギャン公の一子、グードス殿であろうと」
ミダス公の守護をも兼ねている『銀羽根』が、まんまとしてやられたことに強い怒りを感じているのだろう、目をきらきらと光らせて、
「もしグードス様なら、いくら『銅羽根』の長であろうと、『銀羽根』の名にかけて、このままで済ませるわけにはいきますまい」
「アシャ?」
「あ…ああ、いや…」
アシャが考え込んだ表情のまま、じっとユーノを見ているのに気づいて声をかけると、我に返ったように軽く頷いた。
「どうも腑に落ちないところがあるんだが……ここであれこれ言っても始まらんな。公もたいした傷ではなかったことだし、この場はシャイラに任せて、俺達はアギャン公を探ってみよう」
「しかし…どうやって」
「とりあえず、アギャンの分領地に紛れ込んでみる」
アシャはにやりと不敵な笑みを見せた。
「しばらく離れていた分、俺も今のアギャンの動きについては詳しくない」
「けれど、あなたは」
シャイラは肩を竦め首を振った。
「無理ですよ。あなたは目立ち過ぎる。アシャ・ラズーンの名を知らない人間が、このラズーンに居るとは思えません」
「アシャ・ラズーンは、な」
「あ!」
なぜか少々投げやりな口調になったアシャに、イルファが嬉しそうな声を上げた。
「わかったぞ、つまり」「わからなくていい」
苦い顔で間髪入れず、アシャが遮る。堪えた様子もなく、むしろ楽しげにイルファが口を開く。
「こいつは女になるのも得意なんだ。な、そうだろ?」
「女になるわけじゃない、姿形をまねるだけだ」
殺気を込めて返されても、イルファはきょとんとした顔で逆に問い返す。
「別に構わんだろう、もう皆知っているし。それに、お前の『女装趣味』は昔からだろう?」
「『女装趣味』? あなたが? ……一体旅の途中で何があったんですか、アシャ」
「……こいつの話を信じるな」
ぎょっとした顔で振り向くシャイラに、アシャは唸った。




