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ラズーン 5  作者: segakiyui
3.魔手

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28/131

5

 何が悪かったのかと言えば、現実を明らかにしてこなかったことなのは間違いない。ユーノの負担に意識的にせよ無意識的にせよ、甘えてきた周囲と受け止めてきたユーノに問題がある。

『でも、他にどうしたらよかった?』

 問い返すユーノの顔が容易く想像出来る。

 危険を訴えても理解しようとしない周囲。おそらくは無言の傷みを伝えていただろう出来事も無視され、すがりつこうとしても背中を向けられ、それとなく1人押しやられた強大な敵に向かおうとする時、諦めて、笑って、歯を食いしばって剣を掲げる以外、何ができる。死にたくないのだから、仕方ないだろう、そんなことは簡単なことだと言い聞かせて、圧倒的な力に無謀な刃を向けるしかない。

 ユーノの死を織り込み済みの平和。

 けれど、逃げられない、護りたくて。

『他に、私に何が出来た?』

 両手の拳を握りしめ、胸に浮かぶユーノは尋ねてくる。

『どうしたら傷つかずに済んだ?』

 ユーノも、家族も、周囲の皆も。

『どうしたら、誰も泣かずに済んだ?』

 犠牲になる以外、何ができた?

(けど、それは間違ってるんだ)

 アシャは目を閉じたまま、胸のユーノに答える。

(それはお前を殺していく)

 本来の力を歪め、本来の喜びを圧殺し、受け取るべき未来を封じている。

(俺が居れば)

 もっと早くラズーンを離れ、もっと早く諸国へ出て、ユーノに出逢っていれば、気づけたかも知れない、何か出来たかも知れない。

(いや、違う)

 きっとそれだけでは足りなかった、ラズーンから、未来の責務から逃げ出したアシャでは、きっとユーノをどうにもできなかった。自分の持つ力と在り方を自覚した今だからこそ、アシャはユーノに踏み込めた。

(ああ、そうだ)

 アシャが積み重ねて来た全てがあってこそ、今のユーノに踏み込める。レアナやセレド皇宮の無責任さも、ユーノが孤独に一人抱える傷みも、今のアシャにはよくわかる。

「……そうか」

 アシャは目を開いた。顔を覆っていた手を外す。

 視界がきらきらと眩いもので満ちている。目に飛び込む全てのものが、ふいに鮮やかで見事に美しく見えた。

(俺はようやく見つけたのか)

 アシャがアシャとして全てを注いで悔いない場所を。

「……それで、レアナ姫にわざと傷を見せたんですね」

 シートスの声が響く。

「そうすれば、ユーノはレアナ姫に怪我をしたのを隠す必要がなくなる」

 この先の戦況は厳しくなる。ユーノの力がなくては進まない状況もあるだろう。どれほど無理をさせるとしても、ユーノなしでは世界が救えない時が、ひょっとするとあるのかも知れない。

「レアナ姫は聡明だ。これから先の戦いを見届けようとするでしょう、『星の剣士(ニスフェル)』の存在を通して」

 直接戦いに出かけなくとも、ユーノの傷が負担が姿が、世界をレアナに開いていく。

「…忘れさせんさ」

 アシャはちらりとシートスを横目で見た。

「あいつが何を支払っているのか、俺が突きつけ続けるさ」

 シートスが戸惑ったように一瞬目をそらせた。だから、そういう顔はするもんじゃないですよ、とぼそりと呟くのに、アシャは苦笑した。

「もっとも」

 口調を切り替え、体を起こす。乱れた髪を掻きあげ、これみよがしに溜め息をついた。

「あいつが目を覚まして知ったら大騒ぎだがな」

「相手はしたくありませんな」

 シートスはおどけた様子で肩を竦めた。

「あれだけの気性、平原竜(タロ)を怒らせた方がまだましだ」

「無茶を言う」

 アシャはにやにや笑った。一度怒れば一都をも灰燼に帰すという平原竜(タロ)と比べられる少女など、あってたまるか。だが。

「その『相手』をする俺の身になってみろ」

「だから、思い切ったことをなさった、と言ったんです」

「ああ、だが、それでも」

 ふっとアシャは口を噤んだ。続けかけたことばを遮るように酒を含む。

 誰が聞いているわけでもない、それでも。

(あいつが苦しむよりはずっといい)

 屠られるなら本望だろう、命を賭ける相手なのだから。

 揺らいだ視界を伏せて、アシャは無言で盃を空けた。

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