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「ユーノ?!」「ユーノ!」
「ああ、大丈夫だ」
ミダス公の屋敷に帰り着いたアシャは、わっと集まるレスファート達を軽くあしらい、その中から一人を見つけ出した。他の者に負けず劣らず蒼白い顔をして、アシャの腕のユーノを見つめているレアナの姿だ。
「レアナ姫」
「、はい」
はっとしたようにレアナが緊張した声で答え、白いドレスを捌いて急ぎ足に進み出る。
「ユーノが怪我をしました。これから手当をせねばならない。その手当を手伝ってもらえませんか」
「は、はい」
聞いていたシートスが、ほう、と驚いた顔になるのを目で制する。レアナが顔を強張らせて付き従うのを視界の端で見やり、それ以上は誰にも声をかけずに進むアシャに、
「兄さま、私も!」「ぼくも!」
慌てたようにリディノとレスファートが声を上げる。
だが、アシャはあっさりと首を振った。
「いや、レアナ姫だけでいい」
「っ」
リディノがびくりと体を震わせて身を固め、強張った表情でアシャの腕に抱かれているユーノとレアナを見比べる。
「どうして?」
レスファートがわけがわからないと言いたげに首を傾げた。邪気のないアクアマリンの淡い瞳を見張り、なお心配そうに眉を寄せる。
「…そんなに、ユーノのけが、ひどいの?」
今までユーノが重い怪我をすればするほど、すぐに会わせてもらえなかったことを思い出したらしい。不安そうに唇を震わせ、ユーノを見つめ、アシャに目を戻し叫ぶ。
「じゃあ、ぼくもついてく!」
「レス」
「ぼくだって何かできるもん、ねえ、アシャ!」
「大丈夫だと言ったろ、レス」
アシャは安心させるように微笑んだ。声を和らげて宥める。
「ほんの掠り傷だ。ただ、少しだけ手が欲しいだけだ。レスの手もいるようなら、すぐに呼ぶから」
「ほんと? ねえ、『ちゃんと』、ユーノが大丈夫だって言ったら、すぐ会わせてくれる?」
レスファートは熱を込めて確約を求める。
(無理もない)
アシャは苦笑する。
レスファートが感知する心象は、ユーノの受けた傷が深ければ深いほど、ひどければひどいほど、レスファートにも傷みを与える。それをわかっていても乗り越えて近づこうとするレスファートと、それを案じて遠ざけようとするユーノは、この先も相容れないだろう。
(俺達はずっとそうだ)
ユーノの陥った危機が大きければ大きいほど、ユーノ自身に遠ざけられ手を出すことさえ拒まれる。
(すぐ側で、お前が苦しみ傷ついていくのを、ただ見せられるだけで)
ユーノにそんなつもりはないだろう。アシャやレスファートを思いやってのことだろう。だが、それはアシャ達をも傷つける、無力感と絶望で。
それをユーノはどうしても理解しようとしてくれない。
(それほど、誰もお前を助けてやらなかった)
誰にも助けは求められないと思い込んでしまうほど、ずっと1人で闘ってきた。
モスの大隊に1人で向かえると思ったはずがない。相討ちにしても足りない、そう思っていたはずだ。それでも1人で飛び込んでいってしまう。
そうやって死地に活路を見出すしか、生き延びる術がなかったのだ、ずっと。
(家族でさえ)
ユーノがあれほど守ろうとしてきたセレド皇宮の家族は、ユーノの危機を全く気づかなかったのか? そんな事はあり得ないだろう。血の臭い、顔色の悪さ、側で暮らせば暮らすほど、『いつもと違う気配』はあからさまにわかったはずだ、旅を共にした程度の付き合いでしかないアシャ達でさえ『気づいた』のだから。
なのに、誰もユーノの『その部分』に踏み込まなかったのは、『その部分』をユーノが背負わないとしたら、誰が背負うのか、そう無意識に考えていたからだろう。
自分か、それとも、他の家族の誰かか。
(それぐらいなら、ユーノでいいだろう、と)
強いから。何とかいつも、切り抜けるから。
気を失っても剣を手放せず、へとへとになって夜闇を戻ってくる娘に、そんなことを求めたのだ。無意識に、目の前に転がされた傷だらけの体を見ないことにした、自分達の平穏と安定を手放さぬために。
(だからこそ)
俺は、もう、放置しない。
(今度こそ本当にユーノの付き人になる)
主が1人で闘うことしかできないのなら、付き人として、その戦いの負担をとことんまで減じてみせる。
(ユーノ・セレディスの、唯一人の護り手となる)
ぐっと噛み締めた口を、深い息とともに開いた。
「レスファート」
アシャは声を改めた。
「俺がユーノのためにならないことをしたことがあったか」
いつも苛めるじゃないか、そういう混ぜっ返しは戻ってこなかった。問いかける瞳はアシャを通り越し、アシャの中身を、想いを、存在そのものを見据えてくる。その眼を、怯むことなく、動じることなく、アシャはまっすぐ見返した。
「俺は、ユーノを助けたいんだ」
アシャの心象は、今レスファートの眼に何と映っているのか。




