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「は、あっ!」「はいっ…はいっ!」
ユカルと代わる代わる掛け声を掛け、ユーノは一路、ミダス公とアギャン公の分領地の境へと急ぐ。砂埃を上げて走る平原竜の匂いに、懐かしい想いが甦る。
(また、アシャに怒られるな)
引き締めた唇の奥で、微かに笑う。
(ごめんよ、アシャ)
止められないのだ、自分でも。
心のどこかで、いつも敵を捜している気がする。心が切なければ切ないほど、1人だと思い知らされれば思い知らされるほど、それらを一瞬にして燃え尽くしてしまえる戦いを求めている。
(剣の神…戦いの女神の祝福を一身に受けた、いつもそう言われてきた)
それが、12の時から甘えることを許されず、守ってもらえることを夢見ることもできず、ただ夜の静寂を引き裂いて戦い抜いて来た報償なのか、それとも生まれ持った天性の業なのかはわからなかった、が。
(戦士、と、そう人の呼ぶ…)
死に場所を求めているのかも知れない。心の葛藤を噛み締めるのが嫌さに逃げ続けているだけかも知れない。けれど、いつも、戦いの中でこそ、自分の真実が掴み取れる気がする。
(それに…私が出れば、アシャの負担を少しでも軽くできる)
1人屠れば1人分、2人屠れば2人分、アシャの身を守れることになる。
(こんな守り方しかできない)
ごめんね、アシャ。
(でも、仲間だもんね)
できることなら、レアナのように唯一の帰れる場所になりたかった。行き場のない想いを持て余してぶつける時、傷つき疲れた躯を休める時、ただどうしようもなく誰かの温もりが欲しい時、側に居て、その身を受け止め、抱き締め、慰められるような存在となりたかった。
唯一の、魂の伴侶となりたかった。
「ふ…」
ユーノは息を吐き、流れた汗を振り払って上空を見上げた。晴れ渡っていた空は、行く手の方から、今重苦しい灰色に澱み始めている。
(嵐になればいい)
風が髪を巻き上げ始める。足下の地面が地響きと風で埃立つ。
(そうすれば、その間だけは)
こんな切ない自分を忘れられる。
「ユーノ!」
「っ!」
ユカルの声に我に返った。指差された先を見て、ごくりと唾を呑む。
それはまるで、黄色の巨大な昆虫のようだった。
馬に乗り、或いは歩き、ほぼ100人近くのモス兵の隊が、黄色のマントを翻しながら、ゆっくりと三角洲の方へ移動していっている。ラズーンの外壁からそれほど離れていない、モスとラズーンの境界を舐めるようにしてモス兵士の群れは動き続けている。
「こんな鼻先で!」
ユカルが悔しがった。
「ユカル!」
と、見る間に、その中の一隊が分岐して、ユーノとユカルを迎え撃つように広がり始めた。およそ30騎、どの顔もしたたかそうな日に焼けたごつい顔立ちだ。
「畜生!」
「変だと思わないか、ユカル!」
ユーノは叫んだ。
「どうして、あんなにすぐに『ボク』らを迎え撃てる? まるで知ってたみたいに……!」
はっとした。ユカルが凄んだ笑みで振り向く。
「裏切り者が居たようだな、『ミダスの屋敷』に!」
「くっ…」
ユーノの頭の中に、ミダス公の屋敷に居る人間が次々と浮かぶ。『銀の王族』は除外できる。ミダス公あたりはどうだ? いや、それにしてはやり方が露骨すぎる。こんな迎撃の仕方をすれば、自分が裏切り者だと叫んでいるようなものだ。とすると、客人として遇されている誰かか? 今ミダス公邸に居るのは、ユーノ達に数人の視察官に『羽根』…。
(視察官…?)
「来たぞ!」
「わかってる!」
双方全力疾走で近づくのだから、ユーノ達とモス兵士がぶつかるのに時間がかからなかった。
「はぅっ!」「いえっ!」「ぎゃっ!」「うわあっ!」
ジャキッ!! ガガガッッ!!
鼓膜を無理矢理震わせるような剣戟の音が、たちまち周囲を圧する。切り込むユーノとユカル、交わる剣と剣が火花を散らす。
「覚悟しろっ!」「甘いっっ!」
首を狙った剣を跳ね上げた。キンッ、と鋭い音がして、モス兵士の剣先が折れ飛ぶ、相手が怯む隙をついて一閃、一刀のもとに相手を倒して、なおまっしぐらにヒストを駆る。
(こんな所で足止めを食らってるわけにはいかない)
残りのモス兵士は刻々と三角州へ向かっている。いかに戦い慣れている野戦部隊とはいえ、2人で残りの70人前後を相手にしろと言う方が無茶だ。
「ユカル!」
相手の剣が引いた僅かな隙をつき、ユカルの手が空いたのを視界の端で捉えたユーノは叫ぶ。
「ここはまかせて先へ! 知らせるんだ!!」「そうはいくか!」
苛立ったユカルが負けじと叫び返す。
「いくらお前が『星の剣士』(ニスフェル)だって、1対20で無事でいられるかよ! はいそうですかって放り出せると思ってるなら、見損なってるぜ!」




