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ラズーン 5  作者: segakiyui
10.アシャの封印

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9

「…残念なことに、シダルナンは逃してしまったが…」

「十分だよ、シートス!」

 ユーノは話し終わったシートスに、感嘆の声を上げた。

「そうですとも。あなた方がいらっしゃらなければ、私は今ここで無事にはおりません」

 シャイラが深く頭を下げる。

「いや、礼ならセシ公に伝えてもらおう。あの方の機転だからな」

 苦笑いするシートスが応じると、重なるように広間から声が響いた。

「シートス! シャイラ! 今夜の主役が何をしている!」

「ほら、お呼びだよ、シートス」

「やれやれ、苦手だと言ってるのに…」

 溜め息混じりに呟いたシートス、シャイラが広間の方へ戻って行き、1人何か言いたげなユカルが残って、ユーノは少し緊張した。

「何、ユカル」

「…これを言おうかどうしようか、ずっと迷っていたんだが…」

 ユカルが少し目を細める。

「…アシャはひょっとすると……『魔』、かもしれない」

「え…?」

 ユーノはからかわれているのかとユカルを見たが、ユカルの表情は厳しく真面目で、ふざけているようには見えない。

「なんだよ、急に」

「『星の剣士』(ニスフェル)、金のオーラが『見える』視察官(オペ)を知っているか?」

「何言ってるんだよ、視察官(オペ)は誰だって、金のオーラを持っているはずなんだろう?」

「よく聞けよ! 『持っている』とは言ってない。『見える』と言ってるんだ」

「だから、なんだって言うんだよ! 『見える』なんて、そりゃ…」

 言いかけて、ユーノは口を噤んだ。金のオーラと銀のオーラ。ラズーンの二百年祭のための立役者、視察官(オペ)と銀の王族の認識票、ただし、視察官(オペ)のみ見分けられる、極めて表現力の少ない認識票。

(認識票?)

 改めて考えて、ユーノは眉を寄せた。

 オーラが単に認識票にすぎないはずなら、アシャのあの力は一体どこからくるのだろう。それに、そう言えば、アシャ以外、金のオーラを操っている人間を見たことがない。そもそも認識票にすぎないものが、なぜ他のものに及ぼす力を持ち、操ることができるのだろう。それはつまり、少なくともアシャの場合、オーラは認識票だけではない、他の『何か』だと言うことではないのか。

(それに)

 『太皇(スーグ)』のいつかの言葉が蘇る。『氷の双宮』の凄まじい力を最初から制御できたのはアシャだけ。なぜ『アシャだけ』なのだ? なぜ、『正統後継者だけ』ではない?

 『太皇(スーグ)』が、ユーノをさえ正統後継者候補とするほど跡継ぎを欲しながら、なぜ易々と、事もあろうに第一正統後継者であるアシャが視察官(オペ)になり諸国を経巡ることを認めたのか。

(正統後継者の力は認めた、けれど……継ぐことは望んでいなかった……とか?)

 もしそうならば、普通の国なら下手をすると暗殺されていてもおかしくない、国の安泰のために。なのに、アシャは守れらなくとも追撃されずに放置され、しかも帰還は歓迎された、ユーノを伴ったからだけではあるまいに。

 考えてみれば、アシャにも、ラズーンそのものと同じぐらい謎の部分がある。

(アシャは『特別』なのか? ラズーンにとって?)

「気をつけろよ」

 ユカルの声にユーノは物思いから覚めた。

「言いたかったのはそれだけだ。じゃ、な」

 ユカルは飾りのない茶色の長衣を翻した。だが、広間に入る前に立ち止まり、半身振り返る。

「お前が野戦部隊(シーガリオン)に戻れば、みんな、歓迎するぜ……もちろん、俺も」

「ユカル…」

 ユーノは首を振った。

「それはたぶん、ない」

「言って見たかっただけだ。じゃあ」

 ユカルは少し寂しそうに笑って、広間に消えた。

 ユーノの心の中には、ユカルの投げかけた問いかけが、波紋を広げて行く。

(アシャが………『魔』…だって……? アシャ…が……?)


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