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「何?」
「あの方は今、アギャンの一子、グードスの救出に『泥土』に向かわれている。その隙をギヌアが狙わぬはずはないだろうと見立てられた。あの方と関わりのあったアリオ・ラシェットを使い、四大公分断を図る恐れがあると予想し、動くならそれで良し、その動きを罠に仕立てて逆にギヌアを狙う作戦となったんだ」
「じゃ、何か? ギヌアは俺を手駒にしようと?」
「以前よりはわかりが良くなったようだね」
にこりとセシ公は笑った。
「テッツェのお陰だな」
「放っておけ。…が、アリオはどうなる? アシャのことで呼び出されたのは確か…」
「ギヌアの手の者が、な」
セシ公は酒を含んだ。
「何、カルキュイと言う下っ端だよ。アリオ姫はアギャンの公邸に滞在している様子だ。既に手は打ってあるさ」
「ふ、ん」
ジーフォ公は盃の酒を苦々しく飲み干した。
「お前がそう言うなら、アリオは無事だろう……だが、ミダスはどうする?」
この時、セシ公の唇に浮かんだ笑みを、もしリヒャルティが見ていたならば、きっと呆れてぼやいたことだろう、兄貴にあんな笑い方ができるとは思わなかったと。前に居たジーフォ公さえもぎょっとしたほど、それは甘く優しい微笑だった。
「あそこには、私の主が居る」
「主? 『太皇』か?」
「『星の剣士』(ニスフェル)……そう呼ばれた少女だ」
「『星の剣士』(ニスフェル)? 話には聞いたことがあるが……女? ……待てよ?」
ジーフォ公は顎に指を当て、考え込んだ。
「…ひょっとすると、俺はそいつを既に見ているかも知れん……そうだ……多分、あの『双宮』で、剣を交わしかけたことがあるぞ」
「命拾いをしたな、ジーフォ公」
セシ公は元通りの淡々とした口調で続けた。
「どうする? これから先を話すか、それとも」
冷徹な目、感情が消えていると言われる目で、ジーフォ公を見据える。
「この場で剣を交えるか」
「……日和見主義のお前にしちゃ、よくできた選択だ」
ジーフォ公はにやりと笑った。
「どうせテッツェも噛んでるんだろう。交えるとしたら、1人で全員を相手にしなきゃならん」
「そんな無駄はしないよ」
セシ公は冷ややかに応じた。
「次の盃を進めないまでのこと……解毒の盃を、ね」
「!」
口元を押さえて、ジーフォ公は跳ね上がるように席を立った。見開かれた瞳がセシ公の眼を探る。低い呻きが唇から漏れた。
「何を…飲ませた」
「遅効性だと言うことだ。まだ他人には試してはいないがね」
セシ公はゆっくりと酒を傾けた。
「同じ酒…だぞ」
「相打ちなら悪くはない。どちらにせよ、あなたと私が剣を交わせば、互いに死ぬのは明らかだよ」
死の沈黙が部屋を包んだ。やがてどさりとジーフォ公が腰を落とす。
「…どうして、こんな手間をかけた?」
「あなたがアリオ姫に惚れこんでいると言う情報は、私のところでも古いものだが、ここ数年変わっていない。アシャ殿の配下に入り、『星の剣士』(ニスフェル)を主とする以上、万が一の手落ちも許すわけにはいかない。私がラズーンの参謀なら、なおのこと」
淡々とした説明は穏やかで激さなかった。深い吐息を一つ付き、ジーフォ公は盃を上げた。
「次の酒をくれ。アリオのことを含んでも、ラズーンを裏切るつもりはない」
「…では、どうぞ」
セシ公は微笑みながら、そっと別の器を差し出した。




