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異世界転移した元社畜、無限の調味料チートと屋台飯で第二の人生を味わい尽くす  作者: ヤミラミ


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第35話:爽風を呼ぶ【万能ポン酢】

森からの調査から一夜。修也の屋台の仕込み場には、鮮烈な香りが満ち満ちていた。


昨日の探索で手に入れた野生の生姜や大葉、そして「旨味の塊」であるポルチーニ系のキノコが整然と並べられている。


「師匠……! この根っこ(生姜)、すり下ろしたら鼻に抜ける爽快な香りとピリッとした辛みがすごいです! こっちの緑の葉っぱ(大葉)も、清々しい良い匂いがします!」


すり鉢をゴリゴリと動かしながら、カイが興奮気味に声をあげる。


「だろ? この辺の肉料理は、濃厚な甘辛タレや塩焼き、あるいはラードでベタベタに揚げたものが主流だ。バザルタの港町で働く男たちも、毎日そういう重いものを食ってりゃ、どうしても『胃が重い』『ちょっとさっぱりしたものが食べたい』って時期が来る」


修也はニヤリと笑うと、胸ポケットから新たな小瓶を取り出した。


チート能力【調味料自動生成】によって生み出された、異世界に未だ存在しない究極の爽やか調味料――【特製・万能ポン酢】だ。


生搾りのスダチや柑橘果汁のキュッと引き締まる芳醇な酸味。

熟成された醤油の深み。

そして、昨日採取したキノコと出汁の素(昆布・鰹)から抽出した、まろやかな「旨味」が奇跡のバランスでブレンドされている。


「酢、ですか? お酢みたいな甘酸っぱい匂いがしますけど、ツンとした嫌な角が全然ないですね……!」


「そうだ。酸味と醤油、そして旨味の三位一体だ。こいつに……すり下ろした根菜(大根風の野菜)と、すり下ろした生姜、刻んだ大葉を合わせる」


修也は、炭火の上でジューシーに焼き上げた厚切りの豚肉風魔物肉オークロースを素早くまな板へ移すと、一言も挟まずザクザクと分厚く切り分けた。


溢れ出るアツアツの肉汁。本来ならこれだけでも十分美味いが、脂身が多いため何枚も食べると胃に来る部位だ。


そこへ、修也はたっぷりの「大根おろし」と刻み大葉を乗せ、上から冷やした【特製ポン酢】を豪快に回しかけた。


――ジュワァァァッ……!


香ばしい炙り肉の熱によってポン酢が温められ、爽やかな柑橘の酸味と焦がし醤油、そして大葉と生姜の清涼感が一気に蒸気となって弾け飛んだ。


「うわぁぁぁぁっ……! なにこれ、なにこれ食欲が……っ!? さっきまで仕込みでお腹いっぱいだと思ってたのに、匂いを嗅いだ瞬間にお腹が鳴りました!」


「これが『さっぱり系』の魔法さ。冷めないうちに食ってみろ、『和風おろしポン酢・炙り厚切り豚ロース』だ!」


「はいっ! いただきます!」


カイは箸で大根おろしと大葉をたっぷり肉に巻き付け、口の中へ放り込んだ。


「んんんんんんんんっっっ!!??!???!!!」


一口噛みしめた瞬間、カイの目が見開かれ、落雷に打たれたように体が硬直した。


厚切り肉の歯ごたえとともに、本来なら重いはずの脂身の旨味がジュワッと溢れ出す。

しかし――その直後!


シュワァァァッ……!


口の中に吹き荒れるのは、どこまでも爽やかな柑橘の酸味と、生姜と大葉の清涼感!

大根おろしが溢れ出る肉汁を余さず吸い上げ、ポン酢の旨味が脂っこさを完全に相殺リセットしてしまう。


「重くない……! 脂身が全然重くないです師匠っ!! むしろ肉の甘みがポン酢の酸味で引き立てられて、噛むたびに爽快な旨味が口いっぱいに広がります……! いくらでも、いくらでも食えちゃうやつですこれ!!」


ハフハフと歓喜の声をあげながら、大きな厚切り肉を何枚もガツガツと平らげていくカイ。


「だろ? こいつの恐ろしいところは、『無限に食える』ってことだ」


修也が笑っていると、屋台の暖簾をくぐってフラフラと入ってきた影があった。

常連のガテン系作業員・ハンスだ。連日の猛暑と連勤で、すっかりバテた顔をしている。


「シュウヤの兄ちゃん……すまねぇ、今日はちょっと胃が重くてよ……。いつものタレ焼き鳥丼は腹に入りそうにねぇんだ。なんか軽めの……」


ハンスが言いかけたその瞬間、修也が目の前に差し出したのは、ポン酢の湯気が立ち上る『おろしポン酢肉丼』だった。


「ハンスさん、バテてる時にこそこれです。一口食べてみてください。ダメなら代金はいりません」


「えっ……? 肉に……白いスリ鉢の野菜と、酸っぱい匂いのタレがかかってんのか……? 正気かよ……」


ハンスはおそるおそる、おろしポン酢がたっぷり絡んだ肉を一口頬張った。


次の瞬間――ハンスの目がカッと見開かれた。


「――っっ!? な、なんだこれぇぇぇぇっ!? 喉を通り抜ける爽やかさが凄ぇ! 胃の中の重たさが一瞬で吹き飛んで、喉が肉を求めて暴れ出しやがる……っ!!」


ハンスは叫ぶなり、丼を持ち上げて怒涛の勢いで米と肉をかき込み始めた。

「美味い! 爽やかだ! どんどん入るぞおい!!」と猛烈な勢いで完食し、空になった丼をカウンターに叩きつけた。


「兄ちゃん!! おかわりだ! これならあと2杯は食える!! 胃バテが吹っ飛んだぞ!!」


「ははは! まいど!」


港町のガテン系労働者の胃袋を「濃厚さ」だけでなく「圧倒的爽快感」でもノックアウトした修也。


新調味料【万能ポン酢】の完成により、バザルタの屋台はどんな体調の客も取りこぼさない、隙のない「無敵のメニュー陣形」を完成させつつあった。

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