第34話:魔物の森と、毒とされた宝
海鮮かき揚げ丼の爆発的ヒットから数日。
バザルタの路地裏で盤石の地位を固めた修也は、次なる「味覚の革新」を求めて、バザルタの東に広がる広大な深緑の森『レヴィンの森』を訪れていた。
同行しているのは、弟子のカイ、そして護衛として冒険者ギルドから依頼したベテラン冒険者チームの面々だ。
「シュウヤさん、ここから先は魔物も出る危険なエリアだ。料理人が立ち入るような場所じゃないんだが……本当にこんなところで『新しい食材』が見つかるのか?」
大剣を背負った冒険者のリーダーが、怪訝な顔で木々の間を警戒しながら尋ねる。
「ええ、大ありですよ。市場に並んでいる野菜や肉だけが食材じゃないですからね。自然の森には、誰も気づいていない宝の山が眠っているんです」
修也は足元の湿った土や、巨木の根元に注意深く視線を走らせる。
異世界においては、農家が栽培する基本的な野菜や家畜の肉、あるいは有名な薬草くらいしか「食料」として認識されていない。森の中に自生するキノコやハーブの多くは、「知識がないため毒の危険がある」として一括りに忌避され、見向きもされてこなかったのだ。
「師匠! 見てください、これ! 木の根元にすっごい不気味なキノコが生えてます!」
カイが指さしたのは、湿った巨木の幹の根元だった。
そこには、傘がカサカサと茶色く分厚く熟し、柄が太くどっしりとした、前世でいう『ポルチーニ茸』や、群生する『ブナシメジ』に酷似したキノコが大量に自生していた。
冒険者のリーダーが慌ててカイを制する。
「おいおい、触るな少年! それは『ブラウン・スライムの傘』って呼ばれてる不吉なキノコだ! 食ったら腹を壊すか死ぬって言われてて、冒険者も誰も手を出さねぇぞ!」
「毒、ですか……? でも、すごく芳醇な、土と木の良い匂いがしますよ?」
カイがおそるおそる鼻を近づける。
修也はしゃがみ込むと、ナイフを取り出してキノコの根元を丁寧に削ぎ落とした。
切り口からは一切の変色も毒性特有の汁も出てこない。匂いを嗅ぎ、ほんのわずかに舌先で触れて確かめる。
「毒なんかじゃないさ。これは……極上の『旨味の塊』だ」
修也の瞳がギラリと光った。
「旨味……? 旨味ってなんですか、師匠?」
「甘み、塩味、酸味、苦味とは違う、料理を爆発的に美味しくする『第5の味覚』だよ。……それと、あっちの群生している草を見てみろ」
修也が指さした先には、爽やかな香りを放つ緑の葉――前世でいう『大葉』や『生姜の原種』、そして『ローズマリー』に酷似した野生ハーブが自生していた。
「あんな雑草、ただ苦くて辛いだけだろ? 薬草にもならねぇよ」
冒険者たちが口を揃えて言うが、修也にとっては宝の山以外の何物でもなかった。
「生姜に大葉、そしてポルチーニ系のキノコか……。肉の臭みを消し、脂っこさを一瞬でさっぱりさせ、出汁の深みを何倍にも引き上げる……最高の山菜たちだ」
修也はチート能力【調味料自動生成】の知識と照らし合わせ、そのキノコとハーブが完全な食用であり、かつ栄養価と旨味成分(グアニル酸・グルタミン酸)が前世のものを遥かに凌駕していることを確信した。
「親方、このキノコとハーブの生息地を教えてくれた礼だ。護衛報酬とは別に、大銅貨5枚(約5,000円)上乗せする。あと、ギルドを通じてこのキノコとハーブの定期的な採取依頼を出したい」
「はぁぁ!? こんな不気味なキノコと雑草を摘んでくるだけで金になるのか……!? 冒険者の駆け出しどもが狂喜乱舞して飛びつくぞ!」
冒険者たちは目を白黒させながらも、大喜びで頷いた。
「よし、カイ! これを袋いっぱいに詰めて持ち帰るぞ。今日はこの『毒扱いされていたキノコ』と『野生の生姜・大葉』を使って、肉料理の常識を覆す新しい調味料とメニューを作る!」
「はいっ! 師匠! どんな料理になるのか、もう楽しみでワクワクしてきました!」
山ほど詰めたキノコとハーブの袋を背負い、一行は意気揚々とバザルタの街へと戻っていく。
海の次は、豊かな山の恵み。
誰も見向きもしなかった「森の秘宝」を手に入れた修也は、次なる絶品調味料の開発へと足を進めるのだった。
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