第33話:油の魔法と『サクサク海鮮かき揚げ丼』
前日の『アームド・シザー(巨大甲殻類)』の試食大成功を経て、修也の創作意欲は留まることを知らなかった。
翌朝、再び港の市場を訪れた修也とカイの手には、山のような「訳あり食材」があった。
市場の競りで値がつかず、網にかかった雑魚として二散の金で投げ売りされていた小魚たちや、アームド・シザーを捌いた際に出る細かな身の端切れ。そして、バザルタ近郊で採れる安価な根菜や葉物野菜だ。
「師匠、こんなに細かくて不揃いな魚や野菜、どうするんですか? 串に刺すのも難しいですし、焼き鳥みたいに炭火で炙るには小さすぎますよ」
屋台の仕込み場で、大量の食材を前にカイが首をひねる。
「フフ、焼き鳥や焼き魚だけが料理じゃないさ、カイ。食材が小さくて不揃いなら……『まとめて衣で包んで、揚げてしまえばいい』んだよ」
「アゲ……? 油で煮揚げる、あの揚げ物ですか? でも、それだとギトギトして油っぽくなっちゃうんじゃ……」
この世界にも「大量の油で食材を揚げる」という調理法自体は存在していた。
しかし、低温の油でダラダラと揚げるため衣は重くベチャつき、油切れも悪いため、労働者にとっては「お腹には溜まるが胃がもたれる重たい料理」として扱われていたのだ。
修也はニヤリと笑うと、大鍋にたっぷりの食用油を注ぎ、火にかけた。
「温度だよ、カイ。油の温度をしっかりと見極め、水分と小麦粉、生卵を絶妙な冷やし加減で混ぜ合わせた『衣』を使えば……油は食材をベチャつかせるどころか、外はサクサク、中はジューシーに仕上げる最高のマジックアイテムになる」
修也はチート能力【調味料自動生成】を密かに発動し、衣作りに不可欠な特製のみりん風調味料と、和風出汁の素を脳内で生成。氷水で溶いた特製天ぷら衣を用意した。
細かく刻んだアームド・シザーのプリプリした身、小魚のブツ切り、細切りにしたタマネギや甘みのある根菜。
それらをボウルの中でサッと衣に潜らせると、木べらを使って、180度に熱せられた油の海へと滑り込ませた。
―――――シュワワワワワワッッッ!!!!!!
けたたましい油の音が仕込み場に響き渡る!
軽やかな音とともに、刻まれた食材たちが衣を纏って一つの丸い形へとまとまり、油の表面でパチパチと黄金色に花を咲かせていく。
「う、うわぁぁぁっ!? すごい、油の中にいれた瞬間に、衣がパッと開いてふわふわ浮いてきた……! 嫌な油の匂いじゃなくて、香ばしい良い匂いがします!」
「油の温度が下がらないように一気に揚げる。そして、泡が小さくなって音が甲高くなったら……引き上げ時だ!」
修也が網ですくい上げると、そこには黄金色に輝く、分厚く丸い『海鮮かき揚げ』が完成していた。
油をしっかり切ると、箸で突くだけで「サクッ、サクッ」と心地よい軽やかな音が響く。
「さあ、ここからが本当の『飯テロ』だ」
修也は小鍋を取り出すと、チート生成した【和風一番出汁】に【濃口醤油】、【純米みりん】、【ざらめ砂糖】を絶妙な比率で合わせ、強火でサッと煮詰めた。
甘辛く、鰹と昆布の豊かな旨味が凝縮された【特製・天丼のタレ(天つゆ)】の完成だ。
どんぶりに炊き立ての白米を山盛りに装い、その上に揚げたて熱々の海鮮かき揚げをどんと鎮座させる。
そこへ、煮詰めたての甘辛いタレを、お玉から豪快に回しかけた。
――ジュワァァァァァッ……!
タレが黄金色の衣に染み込み、熱々の白米へと滴り落ちていく。
醤油と出汁の芳醇な香り、油の香ばしさ、そして白米の湯気が混ざり合い、狭い屋台の仕込み場を完璧な「食欲の嵐」が支配した。
「よし、出来上がりだ。『特製海鮮かき揚げ丼』。カイ、食ってみろ!」
「は、はいっ! いただきますっ!!」
カイは木のスプーンを手に取り、タレが染みたかき揚げと白米を一緒に大きく掬い上げ、口いっぱいに頬張った。
「んんんんんんんんっっっ!!??!???!!!」
一口噛んだ瞬間、カイの目が限界まで見開かれた。
サクッ……ジュワッ……!
「な、なんですかこの食感……ッ!? 外側は驚くほどサックサクで軽いのに、中からアームド・シザーのプリプリした身と、お魚の旨味、そして野菜の甘みが溢れ出してきます……っ! 全然油っぽくない……! むしろ油が食材の旨味を閉じ込めて、コクに変えてます!!」
夢中で二口目、三口目とスプーンを動かすカイ。
「そしてこのタレ……! 甘辛いタレがサクサクの衣にじんわり染みて、下の白米と合わさると……もう手が止まりません! 旨味が暴走してます師匠っ!!」
ハフハフと息を吐きながら、丼を抱えてかき込むカイ。
その姿を見て、仕込み場の陰で匂いに誘われてやってきていたマルクが、我慢できずに飛び出してきた。
「し、シュウヤ殿ぉぉぉっ! 私です! レオンハルト商会のマルクです! 私にも……私にもその黄金に輝く丼を食べさせてくださいっ! 匂いだけでお腹が鳴り止まないのですっ!」
「ははは! マルクさん、ちょうど試食用に大きいのを揚げておきましたよ。どうぞ!」
「感謝しますっ!」
マルクは上品な身だしなみも気にせず、かき揚げ丼を一口頬張ると、その場で天を仰いだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!! 素晴らしい……! 捨てるしかなかった小魚や端切れが、油とこの甘辛い出汁タレの魔法で、王侯貴族の御馳走すら凌駕する丼に生まれ変わっている……! これはおいくらで出すおつもりですか!?」
「これは平日の定番メニューとして『銅貨4枚(約400円)』で出します。端切れや雑魚を使うから原価は激安です。庶民も大満足、うちも大儲けの最強のメニューですよ」
「ど、銅貨4枚……!? バザルタの労働者たちが狂喜乱舞しますよ……ッ!!」
マルクは感動のあまり震えながら、丼の最後の米粒一つまでキレイに平らげた。
安価な食材を「油の温度管理」と「特製甘辛タレ」で極上の逸品へと昇華させる。
平日限定の新兵器『海鮮かき揚げ丼』の完成により、修也の屋台はまた一歩、バザルタの胃袋を完全に征服へと近づけたのだった。
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