第32話:香ばしき悪魔の香りと【ガーリックバター醤油】
「よし、下処理は完璧だ。……いくぞカイ、炭火に網を乗せろ!」
「はいっ!」
修也の手によって手際よく捌かれたアームド・シザー。
身がギッシリ詰まった巨大なハサミと胴体が、赤々と熾った炭火の上に次々と並べられていく。
じゅうううううううっ……!!
強烈な炭火の熱を受け、刺々しかった甲殻が一瞬で鮮やかな朱色へと染まっていく。
殻の内部で閉じ込められていた旨味たっぷりの肉汁がパチパチと弾け、炭の上に落ちるたび香ばしい湯気が立ち上った。
「す、すごい……炭火で炙られた殻の香ばしさが、これだけでもう十分に美味しそうです……!」
「フッ、まだまだ本番はここからだ」
修也は不敵な笑みを浮かべると、ポケットから小瓶を取り出した。
チート能力【調味料自動生成】によって生み出された、新たな悪魔の試作調味料――【特製ガーリックバター醤油】である。
小瓶の蓋を開けた瞬間、空間の空気が一変した。
香ばしく食欲を刺激するガツンとしたニンニクのパンチ。
北海道産の濃厚な生バターを思わせる、まろやかで罪深いコク。
そして、全体をビシッと引き締める、熟成された芳醇な焦がし醤油の香り。
それらが完璧な黄金比率で組み合わさった液体が、スプーンからトロリと炙り立てのプリプリな身の上へと回しかけられた。
―――ジュワワワワワワワワワワッッッッ!!!!!!
「――〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!??!?」
熱々の肉汁とバター醤油が合体し、炭火の熱風に乗って一気に爆発的な香気を撒き散らす!
路地裏どころか、表の通りにまでその圧倒的な「悪魔の匂い」が届き、通りを歩いていた人々が「な、なんだこの匂いは!?」「腹が減って倒れそうだぞ!?」とパニックになりながら屋台を振り返った。
「よし、焼き上がりだ! カイ、冷めないうちに熱々を食ってみろ!」
「は、はいぃっ!! いただきますっ!」
カイは勢いよく大きなハサミを掴み、あふれ出る肉汁も構わずにガブリと豪快に喰らいついた。
「んんんんんんんんっっっ!!??!???!!!」
一口噛みしめた瞬間、カイの体が激しく跳ね上がった。
歯を押し返してくるような、弾力あふれるプリップリの食感。
噛めば噛むほど、凝縮されていた海老とカニの甘い旨味がジュワッと口いっぱいに溢れ出してくる。
探していた「肉」とはまた違う、海の恵みならではの上品かつ力強い甘み。
そこへ間髪入れずに襲いかかってくるのが【ガーリックバター醤油】の凶悪すぎる追い打ちだ!
ニンニクのガツンとしたコクが脳を揺さぶり、バターの濃厚な旨味がまろやかに包み込み、焦がし醤油の香ばしさが後味を完璧に締め括る。
「う、美味すぎる……美味すぎるよ師匠おおおっ!! 身がプリップリで弾けて、甘くて……っ! このタレが、このタレが凄すぎます!! 炭火の香ばしさとバターのコクが肉汁と混ざり合って、噛むのを止められませんっ!!」
ハフハフと熱い息を吐きながら、火傷も気にせず夢中で巨大な身を貪り食うカイ。
その瞳には、あまりの美味さに感動の涙すら浮かんでいた。
「ふふ、大成功だな。……さて、マルクさん」
修也がニヤリと笑って振り返ると、後ろで見守っていたレオンハルト商会のマルクが、生唾をゴクリと飲み込みながら、生まれたての小鹿のように膝を震わせていた。
「し、シュウヤ殿……っ! た、頼みます……! 私にも……私にもその悪魔の如き香りを放つご馳走を一口……いや、一ハサミ食べさせてください……っ! 匂いだけで胃袋が引きちぎられそうなのです……っ!」
「ははは! もちろんです。これだけの身が詰まった魔物が、仕入れ値たったの300円ですからね。これなら丼にしても、串焼きにしても破格で出せますよ」
熱々のハサミを受け取ったマルクは、貴族のような上品な身だしなみも忘れて身をかぶりついた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!! 美味い……美味すぎる……! 捨てるしかなかった魔物が、こんな至高の逸品に変わるなど……! シュウヤ殿、あなたはやはり天才だ……!!」
バザルタの海に眠っていた「見捨てられた食材」と、修也の【チート調味料】が織りなす最高のハーモニー。
市場を揺るがす海の幸革命の狼煙が、今まさにバザルタの路地裏で上がり始めたのだった。
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