第31話:港の市場と、捨てられる巨大な殻
「うわ……何だこれ。市場の隅に山積みされてるぞ」
翌朝。修也とカイ、そしてレオンハルト商会のマルクの3人は、バザルタの港に広がる巨大な鮮魚市場を訪れていた。
活気あふれる競り場の一角で、修也の目が釘付けになったものがある。
それは、真っ赤な太いハサミと、刺々しい頑丈な甲殻に包まれた体長1メートルを超える巨大な甲殻類の魔物だった。見た目は前世のタラバガニや巨大なロブスターにそっくりだ。
「ああ、シュウヤ殿。あれは『アームド・シザー』と呼ばれる海の魔物ですよ。網にかかると他の魚を傷つける厄介者でしてね。殻が極めて硬く、裁く刃物が傷むうえに、毒針を持つ箇所もあるため、漁師たちは叩き潰して捨てるか、格安で家畜の餌にするくらいしか使い道がないのです」
マルクが苦笑いしながら説明する。
「家畜の餌……!? こんなに美味そうなカニやエビの親玉みたいなやつを!?」
「え、えび……? かに……? 師匠、それ食えるんですか……? 毒があるって話ですけど……」
カイがおそるおそる尋ねる。
異世界では「硬い殻に覆われたグロテスクな多足生物」は不気味悪がられ、まともな食材として扱われていなかったのだ。
修也はニヤリと笑うと、市場の仕入れを取り仕切る頑固そうな老漁師の元へ歩み寄った。
「親方、そのアームド・シザー、生きが良いやつを箱ごと全部買い取りたいんだが」
「あぁん? このバカでかいだけで食えねぇ魔物をか? 冗談だろ、にいちゃん。ハサミに挟まれたら指が吹き飛ぶぞ」
「冗談じゃないさ。死にたてで身が詰まってるやつを10匹。いくらだ?」
老漁師は呆れ果てた顔をしながら、手のひらをかざした。
「……じゃあ、処分手間賃込みで、まとめて大銅貨3枚(約3,000円)でいいよ。持ってくだけ無駄だと思うがな!」
「交渉成立だ!」
10匹の巨大甲殻類が、わずか3,000円。1匹あたりたったの300円だ。
市場の人間たちが「あの物好きな屋台主が騙された」とヒソヒソ噂する中、修也たちは大満足で獲物を屋台へと持ち帰った。
屋台の仕込み場に運び込まれた巨大なアームド・シザー。
「カイ、よく見ておけ。毒があるのはこの尻尾の先の針だけだ。ここを包丁の背で切り落として、関節の隙間に刃を入れれば……ほら」
パカッ、と頑丈な甲殻が割れる。
中から現れたのは、透き通るような白とピンクの、パンパンに詰まった極上の「プリプリの海老・蟹肉」だった。
「うわぁぁっ……! 殻の中、全部身じゃないですか! しかも生なのに、ほんのり甘い出汁の匂いがする……!」
カイが驚愕の声をあげる。
「そうだ。こいつは捨てる部分がない『極上の高級食材』なんだよ。……さてカイ、こいつを炙って、俺が新たに生み出した『新調味料』を垂らすぞ」
修也はポケットから、チート能力で生成したばかりの【特製ガーリックバター醤油】の小瓶を取り出した。
「ガーリック……バター……醤油……?」
「ああ。海の幸のウマさを極限まで引き出す、悪魔の調味料だ」




