第28話:仕込みの改革と、新たな看板
「よし、鶏肉の筋引きとカットはこれで完璧だ。カイ、筋の引き方が丁寧で筋が良いな」
「ありがとうございます、シュウヤ師匠! 『鹿亭』ではひたすら下処理ばかりさせられていたので……役に立って嬉しいです!」
翌朝。朝の静かなバザルタの路地裏で、俺とカイは屋台の仕込みを行っていた。
日給大銅貨8枚(約8,000円)という、下働きとしては破格の待遇を提示されたカイのモチベーションは凄まじかった。
朝日が昇る前から準備を手伝い、俺が教えた肉の切り分けや串打ちの技術を恐ろしい勢いで吸収している。
これまでは肉のカットから串打ち、タレの仕込みまで全て俺一人でやっていた。
だが、カイが下処理を完璧にこなしてくれるおかげで、仕込みにかかる時間が半分以下に短縮されたのだ。
「師匠、この焼き鳥のタレ……熟成された甘みとコクが尋常じゃないです。今まで食べたどの店のタレとも違う。これも仕込みに秘密が……?」
「まあな。仕込みの『配合』は企業秘密だが、焼き加減はお前に叩き込む。炭の配置、遠火の強火、肉の表面の肉汁が弾けるタイミングを見極めるんだ」
「はいっ!」
カイの目が真剣そのものの職人の目に変わる。
秘伝の調味料(チート生成)の核心は隠しつつも、料理人としての「腕」を磨かせる。これなら情報漏洩のリスクもなく、純粋な戦力として育てられる。
そして、昼の営業が始まった。
「へい毎度! 焼き鳥、タレ5本ね! カイ、焼き上がりだ、皿へ盛って!」
「はいっ! 焼き鳥タレ5本、お待たせしました! 焼き立て熱々です、ごゆっくりどうぞ!」
仕込みに余裕ができたことで、俺は焼き台に集中できるようになり、カイが接客や会計、皿出しをテキパキとこなす。
ワンオペだった頃のモタつきが完全に解消され、平日の焼き鳥の提供スピードも格段に上がった。
「おっ、シュウヤの店、手伝いの若いのが入ったのか!」
「接客も威勢が良くて気持ちいいな! 焼き鳥も相変わらず絶品だ!」
客たちの評判も上々だ。
ワンオペの限界を感じていたところに優秀な労働力が加わったことで、店舗としての「回転率」と「客の満足度」が同時に向上していく。
営業終了後、カウンターで本日の売上を集計していたマルクが、目を丸くして帳簿を見つめていた。
「すごい……シュウヤ殿。平日だというのに、焼き鳥の売上がこれまでの1.5倍に伸びています! 人手を増やしたことで回転数が上がり、機会損失(買いそびれ)が綺麗に消えましたね」
「カイが予想以上に動いてくれるおかげですよ。仕込みのキャパシティが上がったから、平日のメニューも少し幅を広げられそうです」
「平日の新メニュー、ですか?」
「ええ。金曜日は『カレーの日』として定着しました。なら、平日はもう少しサクッと食べられて、焼き鳥の肉(鶏肉)を流用できる『仕込み効率の良い丼もの』を出そうかと」
「丼もの……! ご飯の上に、あの絶品焼き鳥を乗せるのですか!?」
マルクが身を乗り出す。
「そう。『特製タレ焼き鳥丼』、一杯銅貨3枚(約300円)。ランチタイムの労働者狙いです」
1本30円の焼き鳥を数本とタレをご飯に乗せ、爆安の300円で提供する。
金曜日以外の平日でも「手軽に腹いっぱい美味い白米が食える店」としてバザルタの日常にさらに溶け込ませる戦略だ。
「大銅貨1枚(1,000円)出せば、焼き鳥丼(300円)を食って、ビール(200円)を飲んでもお釣りが半分残る。……労働者にはたまらない価格設定でしょう?」
俺がニヤリと笑うと、マルクとカイは「また恐ろしいメニューを……!」と同時にゴクリと唾を呑み込んだ。
路地裏の小さな屋台は、一人の従業員を得たことで、着実に次のステージへと進化を始めていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
少しでも「面白かった!」「続きが気になる」と思っていただけたら、ページ下部の【★で評価する】から★★★★★で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!




