第26話:自滅の老害と、聖地化構想
「バ、バカな……! なんでだ……なんで客が一人も来ねえんだよぉぉぉっ!?」
東通りの老舗高級料亭『黄金の鹿亭』の調理場。
店主の老料理人・ドミニクは、頭を抱えて絶叫していた。
彼の足元には、バザルタ中の市場から高値で買い占めた「大量の玉ねぎ」が山積みになっている。
シュウヤの焼き鳥屋台の仕入れを潰し、干上がらせて降伏させるはずだった。
だが――現実は残酷だった。
シュウヤが出したのは、玉ねぎの有無など関係のない、現代日本の技術が詰まった『海軍カレー』。
銅貨4枚(約400円)という爆安価格で、肉と白米がゴロゴロ入った絶品料理がすぐに出てくるのだ。
「金曜日はカレーの日」という強烈な体験を刷り込まれたバザルタの労働者や冒険者たちは、高くて提供の遅い『黄金の鹿亭』など見向きもしない。
買い占めた玉ねぎは、腐敗の臭いを放ち始めるだけのただの廃棄物と化していた。
「あいつの屋台には、王都の商人や冒険者ギルドの上級者まで並んでるって噂だぞ……!」
「うちの店の若手料理人も『シュウヤさんの店で弟子入りしたい』って辞めちまった……!」
店員たちの悲鳴が響く中、ドミニクはガタガタと震える膝をついた。
仕入れ妨害という汚い手を使った結果、残ったのは巨額の借金と、誰にも買われない腐りかけの玉ねぎの山だけだった。
一方、その頃。
路地裏の拠点で、俺(佐藤修也)はマルクと向かい合っていた。
「……なるほど、ドミニク達の『黄金の鹿亭』は事実上の倒産ですか」
「ええ、自業自得です。彼らが買い占めに使った資金は、闇金から借り入れたものだったらしく……今や商会からも追放状態ですよ。……それよりシュウヤ殿」
マルクが目を輝かせながら、一枚の羊皮紙をテーブルに広げた。
「王都のレオンハルト商会本部から緊急の連絡が入りました。『そのカレーと焼き鳥のシステムを、すぐに王都へ持ってきてくれ。店舗と資金はいくらでも用意する』とのことです!」
王都進出。
普通の商人なら飛びつくような願ってもない大チャンスだ。
だが――俺は静かに首を振った。
「断ります」
「えっ……!? な、なぜですか!? 王都に行けば、今の何倍もの金と名声が得られますよ!?」
驚愕するマルクに対し、俺は前世の営業マン時代の思考を巡らせながら、自説を語る。
「マルクさん。俺の『秘伝の調味料』は、俺自身がこの手で生み出し、管理しなければならないという強い制約(仕様)があります。俺が王都へ行けば、このバザルタの店舗はおしまいだ。それでは意味がない」
「しかし、それではビジネスの拡大が……」
「拡大のやり方を変えるんですよ」
俺は地図の「バザルタ」の場所を指で叩いた。
「俺が王都へ行くのではなく、『世界中からバザルタへ人を集める』んです」
「世界中から……バザルタへ!?」
「ええ。最終的には全世界の料理人や商人をバザルタに招き入れ、バザルタを世界中の食文化を統括する『セントラルキッチン(総本山)』にする」
マルクは息を呑んだ。
修也が考えているのは、ただの「店舗拡大」ではない。
バザルタという地方都市を、世界中のグルメや商人が集まる『食の聖地』へと塗り替えるという、国家規模のプラットフォームビジネスだったのだ。
「本物の味と体験は、ここバザルタでしか味わえない。だからこそ王都の貴族も、他国の豪商も、わざわざこの街へ足を運ぶようになります。……街全体が潤い、商会も儲かり、俺の負担も最小限で済む。完璧なエコシステムでしょ?」
俺がニヤリと笑うと、マルクはゾクゾクとした感動に体を震わせた。
「……凄まじい。あなたは一店舗の店主ではなく、街の歴史そのものを創り変えようとしている……!」
「ですが、今までのように一朝一夕といったっわけにはいきません。まずは信用や資金集め、商品の構想を練るなど多くの課題を乗り越えていくところから始めましょう。」
老害どもの自滅を足がかりに、修也の「バザルタ聖地化計画」が静かに、そして力強く動き出した。
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