第25.5話:金曜の勝算と、プライシング戦略(売上分析)
狂乱の金曜日営業が終わり、静けさを取り戻した夜。
俺はカウンターの上で、ズッシリと重い革袋から大銅貨や銅貨、鉄貨を取り出し、ジャラジャラと仕分けをしていた。
「……よし、今日の売上データの集計完了だ」
前世の営業時代、新商品のローンチ初日の売上(POSデータ)を分析する瞬間はいつも胃が痛かったが、今日は違う。思わず口元が緩んでしまうほどの数字が弾き出されていた。
今回の『特製バザルタ海軍カレー』の導入にあたり、俺が設定した価格と売上内訳は以下の通りだ。
『金曜限定カレー』プライシング(価格設定)と原価率
焼き鳥(1本):鉄貨3枚(約30円)
設定理由: 圧倒的な大衆価格。これまでの看板商品。
特製バザルタ海軍カレー(単品):銅貨4枚(約400円)
設定理由: 銅貨4枚で腹いっぱい食える爆安設定。「今週もお疲れ様」と労働者が毎週自分へのご褒美に通える絶妙なライン。
【一番人気】金曜カレーセット(カレー+焼き鳥4本):銅貨5枚(約500円)
設定理由: 単品で頼むより20円相当(鉄貨2枚分)お得になるクロスセル戦略。「大銅貨1枚(1,000円)を出せば、綺麗に銅貨5枚(500円)のお釣りが返ってくる」ため、レジ作業も超スムーズ。客のほぼ全員がこのセットを注文した。
そして、一番の強みが圧倒的な原価率の低さ(高利益率)だ。
ルウの核となるカレーパウダーや醤油、ウスターソースは【チート】で原価タダ(0エナ)。
実質的な原価は、米、肉、リンゴや根菜といった現地の食材費のみ。
通常、飲食店の原価率は30%前後が理想と言われるが、このカレーセットの原価率は驚異の12%以下に抑えられている。
初回「金曜カレー」の売上実績(1日)
金曜カレーセット(500円): 200食(大銅貨100枚分/10万円相当)
カレー単品(400円): 50食(大銅貨20枚分/2万円相当)
単品焼き鳥・冷え冷え麦酒等: 大銅貨30枚分相当(3万円相当)
本日合計売上:大銅貨150枚 =【銀貨1枚+大銅貨5枚】(約150,000円相当)
「……たった一日、しかもワンオペの昼〜夜営業で、銀貨1枚半(15万円相当)の売上か」
ジャラジャラと鳴る硬貨を数えながら、満足の笑みがこぼれる。
ワンコイン感覚(銅貨5枚)で買えて、大銅貨1枚(1,000円)を出してもお釣りがパッと出せるオペレーションの速さによって客数が爆発的に伸び、結果として爆安価格にもかかわらず圧倒的な利益を叩き出すことに成功したのだ。
何より恐ろしいのは、15秒で1食提供できる超高速オペレーションのおかげで、「大行列ができているのに回転率が落ちず、機会損失(売り逃し)がゼロだった」という点にある。
「シュウヤ殿……! レオンハルト商会の提携店舗全店からも報告が入りました!」
夜遅く、興奮冷めやらぬ様子でマルクが屋台に駆け込んできた。
「提携している酒場でも、今日一斉にカレーを解禁したところ、どこも開店から1時間で完売! 『銅貨4枚や5枚でこんな美味いカレーが食えるのか!』と叫ぶ冒険者どもで、街中の酒場が大繁盛ですよ! 東通りの飲食店業界の連中、買い占めた高価な玉ねぎを抱えたまま、あまりの客の奪われように顔を青くして泡を吹いているそうです!」
「はは、それは良いザマですね。仕入れを妨害すれば勝てると思っていたようですが、ビジネスは『顧客体験』と『提供スピード』で決まるんです」
マルクは帳簿の数字を見て、ガタガタと震えていた。
「これ……銅貨数枚という圧倒的な手軽さだからこそ、街中の労働者が毎週リピートしますよ。商会のロイヤリティ収入だけでも今月の利益が跳ね上がります! シュウヤ殿、あなたという男は……本当に恐ろしい」
俺は集計した羊皮紙を丸め、ニヤリと笑った。
敵の嫌がらせを完全に逆手に取り、莫大な利益と「金曜日のルーティン」を街に刻み込んだ佐藤修也。
そして絶妙な大衆価格で胃袋を掴まれたバザルタの街。
修也のビジネスは後の世で『バザルタの奇跡』と呼ばれる世界を揺るがす食革命となっていくのであった。
カレー400円だったら毎日食べたいなぁ。
最近は何でも高くて嫌になる。




