第24話:真紅の缶と、運命の試食会
「……シュウヤ殿。これが、あの赤い缶の粉から作った料理、ですか?」
ヴァルハイト公爵邸の一室。
豪奢な円卓を囲むのは、公爵閣下、愛娘のエリスちゃん、そしてレオンハルト商会のマルクだ。
彼らの前に並べられたのは、白い平皿に盛られた黄金色の美しいとろみを持つスープと、ツヤツヤに炊き上がった白米。
そう、日本の国民食――カレーライスである。
部屋中に立ち込める、未だかつて誰も嗅いだことのない、脳の満腹中枢をダイレクトに刺激するスパイシーで芳醇な香り。その暴力的なまでの香気だけで、一同がゴクリと喉を鳴らすのが分かった。
「ええ。飲食店業界の連中が玉ねぎを買い占めてくれたおかげで、逆に吹っ切れましてね。我が商会の最高機密である『門外不出の調味料』を解禁しました。その名も『カレーライス』です」
「かれーらいす……」
エリスちゃんがその不思議な響きを反芻しながら、上品にスプーンを持ち上げる。
「見た目は少しドロっとしていて不思議な料理ですけれど……でも、この香り、なんだか身体が熱くなってくるようですわ」
「見た目で判断するなよ、エリス。シュウヤ殿の料理だ、我々の想像を遥かに超えてくるに決まっている。……では、いただこう」
公爵閣下が先陣を切り、ルウと白米をスプーンですくい、口へと運んだ。
続いて、エリスちゃんとマルクも、我慢できないとばかりに口へ駆け込む。
その瞬間、3人の動きが完全にピタリと止まった。
「ッ……!?!?!?」
最初に目を見開いたのは、数々の山海の珍味を食べてきたはずの公爵閣下だった。
スプーンを握ったまま、まるで雷に打たれたように硬直している。
「な、なんだこれは……! 口に入れた瞬間は、林檎の爽やかな甘みと肉の濃厚な旨味が広がる。しかし、その後だ……! 十数種類もの未知の刺激が、怒涛の濁流となって舌の上を駆け抜けていくぞ……! 辛い、確かに辛い! なのに、スプーンが止まらん!」
「おいし……おいしいですわ、シュウヤ様! お口の中がポカポカして、刺激的なのに、どうしてこんなに奥深いコクがあるの!? ご飯との相性も抜群ですわ!」
エリスちゃんは普段の淑女らしさを完全に忘れ、ガツガツとスプーンを動かしている。頬をほんのり赤く染め、額にうっすらと汗を浮かべてカレーを頬張る姿は、めちゃくちゃ可愛い。
そして、ビジネスマンであるマルクは、皿に顔を突っ込まんばかりの勢いで完食すると、震える声で俺を見た。
「シュウヤ殿……これ、正気ですか!? 薬草特有のあの泥臭さが、完璧に『旨味』へと昇華されている! しかも、このとろみのおかげで、冷めにくく満足感が凄まじい! 宿場町の荒くれ冒険者や労働者どもに出してみなさい、全員美味さのあまり狂いますよ!」
「でしょう? だからこそ、これを『毎週金曜日限定』の看板メニューにするんです」
俺はニヤリと笑って、システム営業時代のプレゼンモードに入った。
「金曜日限定……? なぜ毎日売らないのですか?」
公爵閣下が不思議そうに尋ねる。
「『いつでも食える』ものは、有り難みが薄れるんです閣下。金曜日になれば、この病みつきになる辛さが食える――その飢餓感が、労働者たちの『一週間のご褒美ルーティン』になる。さらに、飲食店業界の連中がいくら野菜を買い占めようが、このカレーは『根菜と余った肉』さえあれば最高の味が出せる。仕入れの脆弱性(弱点)すら克服しているんですよ」
マルクが「天才か……!」と頭を抱えた。
「素晴らしい……! シュウヤ殿、この『カレー』という兵器があれば、東通りの飲食店業界の包囲網など、文字通り粉砕できますな!」
「ええ。飲食店業界の重鎮たちにお披露目してあげましょう。僕たちの『金曜カレー』の破壊力を」
試食会は満場一致で大成功。
後ろ盾の確信と、流通担当の狂喜を得た俺は、バザルタの街を揺るがす「金曜日のカレー」の決行日を待った。
海軍カレー登場させることができて嬉しい。
ちなみに自分の家は林檎と蜂蜜のやつと金のやつを使ってます。
赤い缶のも美味しいよね。




