第21話:レオンハルトの馬車網と、冷え冷え前線北上中
公爵邸でのプライベートディナーから数日。
あのレオンハルト商会の幹部マルクが、契約書を両手に抱えて再び俺の屋台へと血相を変えてやってきた。
「シュウヤ殿! 会頭のレオンハルトもあなたの提案に大絶賛でしてな! ヴァルハイト公爵家との共同バッキング(後ろ盾)の件も含め、すべての条件を丸呑みしろと厳命が下りました!」
「それは重畳です、マルクさん。良いビジネスになりそうですね」
俺は差し出された契約書に目を通し、ニヤリと笑ってサインを交わした。
これで、レオンハルト商会がバザルタ市内に所有する、あるいは息がかかっている中堅から高級までの酒場・宿場、計15店舗との「業務提携(フランチャイズ化)」が正式に決定した。
システムはシンプルだ。
毎朝: 肉ギルドから届く新鮮な廃棄部位と、ガルツ達が狩ってきたオーク肉を、俺が【創造調理】で一括仕込み。さらに、エール樽に冷却魔力を注ぎ込んで「時間凍結」させる。
午前: レオンハルト商会の集荷馬車が俺の拠点を訪れ、仕込み済みの串と冷え冷えの樽を回収。
昼前: 商会の圧倒的な配送ネットワークで、市内15店舗の酒場へ迅速にデリバリー。
夜: 各店舗で「バザルタ名物・冷え冷え麦酒と極上焼き鳥」として販売。売上の数パーセントが、俺の懐にロイヤリティとしてチャリンチャリンと転がり込む。
「いやはや、本当に信じられん……。うちの馬車で運んだエールが、半日経っても樽ごとキンキンに冷えたままだなんて。各店舗の店主たちも『冷気魔石のコストが浮く上に客が殺到する!』と大喜びですよ」
集荷に立ち会ったマルクが、冷気の霜を纏った樽に触れて感嘆の声を漏らす。
そう、これが俺の狙いだ。
俺は自分の屋台(拠点)から一歩も動いていない。炭火の前に立って汗を流すのも、毎日の仕込みの数時間だけ。
それなのに、レオンハルト商会のネットワークに乗った俺の商品が、今、バザルタの街の食文化を急速に侵食し始めている。
「おい、聞いたか? 大通り沿いの酒場でも、あの路地裏の『冷たいビール』が飲めるようになったらしいぞ!」
「マジかよ! わざわざ狭い路地裏に並ばなくていいのか!」
街の冒険者や市民たちの間で、噂は一気に爆発した。
これまでは俺の小さな屋台のカウンターに滑り込めた幸運な数人しか味わえなかった「至高の組み合わせ」が、今やバザルタ中のあちこちで楽しめるのだ。売れないわけがない。
俺のノートに書き込まれる「ロイヤリティ収入」の数字は、日を追うごとに恐ろしい勢いで跳ね上がっていった。
だが、このあまりにも急激な「市場の独占」は、当然、面白く思わない既存の勢力の目を引くことになる。
「ふん、路地裏の小僧が、大商会と公爵家の虎の威を借る狐になって調子に乗っておるな……」
バザルタの東通り、富裕層や貴族が通う格式高い高級料亭『黄金の鹿亭』。
その豪奢な一室で、不機嫌そうにワイングラスを揺らす一人の男がいた。
彼こそが、これまでバザルタの飲食業界を裏で牛耳ってきた、東通り飲食ギルドの目の敵――。
俺のプラットフォーム戦略の前に、最初の「明確な敵」が、その牙を剥こうとしていた。




