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『【毎日更新】異世界転移した元社畜、無限の調味料チートと屋台飯で第二の人生を味わい尽くす』  作者: ヤミラミ


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第19話:大商会の甘い罠と、営業マンの逆提案

「金貨100枚、ですか」


俺は手元に差し出された銀のプレートを見つめながら、ゆっくりとその言葉を繰り返した。

普通の屋台商人なら、一生遊んで暮らせるかもしれない大金に目を輝かせ、二つ返事で契約書にサインするところだろう。


だが、前世で数々の企業の買収劇やライセンス交渉を見てきた俺の頭は、驚くほど冷えていた。


(なるほどな。彼らの狙いは『焼き鳥のレシピ』じゃない。冷気魔石も使わずに、エールをキンキンに冷やし続ける『謎の冷却技術』の独占権だ)


もしこの技術がレオンハルト商会の独占になれば、彼らはバザルタ中の高級料亭や大酒場にそれを売り込み、一瞬で金貨数千枚規模の利益を叩き出すだろう。

金貨100枚など、彼らにとってははした金。典型的な「技術の買い叩き」だ。


「ええ。我がレオンハルト商会と手を組めば、シュウヤ殿はもう、煙にまみれて汗を流しながら、路地裏でせせこましく串を焼く必要はなくなります」

マルクは勝ち誇ったような、それでいて慇懃無礼な笑みを浮かべた。


「どうでしょう? 悪い話ではないはずだ。この場で契約書にサインを――」


「お断りします」


俺は笑顔のまま、はっきりと拒絶した。

マルクの笑みが一瞬にして凍りつく。


「な……お断り、ですか? 金貨100枚ですよ!? あなたのような個人経営の露店商が、一生かかっても稼げない額だ。それに、我が商会の提案を断るということがどういう意味か、分かっておいでか?」


声に、かすかな脅しが混じる。大資本の力で潰すこともできるのだぞ、という暗黙の圧力だ。


だが、俺は懐から、あの『商業ギルドのシルバープレート(ヴァルハイト商会特別融資店舗)』をスッと取り出し、テーブルの上に置いた。


「なっ……! ヴァ、ヴァルハイト公爵家の紋章……!?」


マルクがギョッとして椅子から浮き上がりかけた。


「ええ。幸いなことに、私の屋台はヴァルハイト商会、ひいては商業ギルドから『特別ゴールドプロテクション(最優先保護)』を受けておりましてね。技術の独占権を他社に譲渡する際は、事前に公爵家への相談が義務付けられているのです。もしどうしてもとおっしゃるなら、今から公爵邸へ一緒に行きますか?」


ハッタリを交えた強烈なカウンター。

公爵家の名前を出された瞬間、マルクの額から冷や汗がダラダラと流れ落ちた。いくら大商会といえど、領地を治める公爵家を敵に回してまで強引な買収ができるはずがない。


「そ、それは……。いや、まさか公爵家直々のご愛顧とは知らず、大変無礼を……」


「いえ、謝る必要はありませんよ、マルクさん」

俺はマルクの「逃げ道」を作るように、さらにトーンを落として微笑みかけた。

ここで敵対して終わるのは三流の営業だ。一流の営業は、相手の「脅威」を「利益」に変えて味方にする。


「買収(独占権の譲渡)は不可能です。ですが――『業務提携』なら、お互いにとってこれ以上ないビジネスになると思いませんか?」


「業務……提携?」

マルクがハンカチで汗を拭いながら、怪訝そうに俺を見た。


「はい。我が店の看板である『冷え冷えのビール樽』。これをお宅の商会が抱える中堅・高級酒場へ、我が店から『レンタル』という形で提供します。ビールの品質管理と冷却システムのメンテナンスは、すべて我が店(私)が保証する。その代わり、お宅の商会が持つ強力な『馬車配送ネットワーク』を使って、その樽を毎朝、各店舗へ迅速に届けてほしいのです」


俺の【創造調理】で一度「時間凍結」した冷却エール樽は、丸一日は冷たいままだ。だが、これをバザルタ中に配るには、俺個人や小さな路地裏の仲間だけでは配送力が足りない。


「レオンハルト商会は、他店との圧倒的な差別化商品を手に入れ、さらに店舗への配送手数料で儲ける。私は、店舗を増やすリスクを一切負わずに、お宅のネットワークを使って『冷え冷えビール』のシェアを街中に拡大できる」


俺は身を乗り出し、マルクの目をまっすぐ見つめた。


「技術を買い叩いて一時の利益を得るか。それとも、私と手を組んで、バザルタ中の酒場の勢力図を塗り替え、恒久的な『莫大な利権』を築くか。……大商会の幹部であるマルクさんなら、どちらが賢い選択か、お分かりですよね?」


マルクはゴクリと唾を飲み込んだ。

その目は、もう俺を「路地裏の屋台のガキ」としては見ていなかった。一人の、恐るべき怪物的な商人として、戦慄と尊敬の眼差しを向けていた。


「……シュウヤ殿。あなたという人は……。分かりました。この提案、すぐに会頭へ持ち帰り、全力で通してみせます!」


マルクは深々と頭を下げると、まるで嵐が去った後のように、大急ぎで馬車へと戻っていった。


(ふぅ……交渉成立だな)


遠ざかる馬車を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。

これで、肉ギルド、Aランク冒険者、そしてバザルタ最大の大商会レオンハルトまで、俺の描いた「共存共栄プラットフォーム」に巻き込むことに成功した。


俺の屋台を起点とした異世界の食文化改革は、今、路地裏を越えて街全体へと急速に侵食を始めようとしていた。

ストックが.....

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