第14話:仕入れルートの壁と、商人の流儀
バザルタの東通り裏路地は、今日も狂ったような熱気に包まれていた。
俺の屋台を中心に、今やこの一帯はちょっとした「名物グルメ街」のようになっている。
近隣の酒露店の親父・バルドさんのところからも、うちから卸した冷え冷えビールを片手に、うちの焼き鳥を美味そうに頬張る客たちの笑い声が聞こえてくる。
いがみ合うことなく、エリア全体で客を呼び込み、全員で潤う。前世のビジネスモデルを応用したこの形は、今のところ完璧に機能していた。
だが――。
焼き台の炭をうちわで煽りながら、俺は心の中で小さくため息をついた。
(嬉しい悲鳴だが……そろそろ限界だな。特に『仕入れ』が追いつかない)
ここ数日の爆発的な売れ行きにより、メイン食材である「ホーンチキン」の仕入れが完全にボトルネックになっていた。
特に、大人気メニューとなった『砂肝』と『レバー』は、チキン1羽から取れる量がごくわずかな希少部位だ。これまでは一般の市場で端肉として安く買い叩かれていたものをかき集めていたが、これだけ毎日大量に消費するとなると、市場の小売りから買うやり方では物理的に在庫が足りない。
「店主! 今日もレバー3本と砂肝2本、それと冷てえビール!」
「すまない、お客さん! レバーと砂肝はさっきちょうど売り切れちまったんだ。モモ肉のねぎまと、ジューシーなオークバラならまだあるよ!」
「えーっ、マジかよ! あのコリコリした砂肝、楽しみにしてたのによぉ」
がっくりと肩を落とす冒険者の姿に、申し訳なさが募る。
商売において「需要があるのに供給できない(機会損失)」ことほど、もったいないことはない。
(やっぱり、市場の小売店を通すのは限界だ。ホーンチキンを大量に養鶏している農家か、あるいはそれらを一手に解体・流通させている『専門の卸業者』と直接契約を結ばないと、これ以上の規模拡大はできないな)
だが、一介の露店商が「直接取引してくれ」と卸業者に突撃したところで、まともに相手にされるはずがない。取引量の壁もあるし、何より信用がない。
しかし、今の俺には、懐で鈍い光を放つ『商業ギルドのシルバープレート(ヴァルハイト商会特別融資店舗)』がある。
「これを使わない手はないな」
営業を終え、手早く片付けと器具の洗浄(もちろん【創造調理】の水魔法応用で一瞬だ)を済ませた俺は、夜の帳が下りたバザルタの街を宿舎へと歩き始めた。
目指すは、商業ギルドのバザルタ支部――への、明朝一番の突撃だ。
一般の窓口は閉まっている時間だが、あのアルド副ギルド長に少し骨を折ってもらうための『提案書』を、今夜のうちにガチガチに作り込む必要がある。
元営業の血が騒ぐ。
単に「融通してください」と頼み込むのではない。「俺と組めば、ギルドにとっても、卸業者(解体ギルド)にとっても、どれだけ美味い話になるか」をロジカルにプレゼンして、優良な仕入れルートをこじ開けてみせる。
市場で処分費用を払って捨てられているはずの「砂肝」と「レバー」を、こちらの圧倒的なキラーコンテンツに変えるためのビジネスモデル。その仕様書を羊皮紙に書き付けながら、俺は不敵に笑った。




