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【百合ロマン小説】八咫烏の巫女  作者: 泉水遊馬
八咫烏神社

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第八話 結界師

帝都の夜は、ガス燈の鈍い光と、排気ガスの匂いに満ちていた。

その喧騒から外れた裏路地で、千鶴は真紅のサックドレスの裾を揺らし、仕込み杖をコツンと鳴らした。

絹のストッキングに包まれた脚が、泥に汚れた石畳を軽やかに踏み越えていく。

クローシュ帽の庇から覗く彼女の瞳は、モダンガールの華やかさとは裏腹に、極冷の魔力を帯びていた。

「あら、こんなところにいたのね、哀れな子。」

路地の奥、腐った肉の臭気とともに、家制度の闇に潰された女の怨念が形を成していく。

それは、何十人もの男たちに労働を搾取され、最期は結核を患ってドブ川に捨てられた女工の陰魔女だった。

無数の黒い手が、壁から、地面から、千鶴の柔肌を引き裂こうと一斉に伸びてくる。

凄惨な殺気が路地を埋め尽くしたが、千鶴は不敵に微笑んだ。

「私の前で、その程度の呪いが通じると思っているの?」

千鶴が仕込み杖を地におろした瞬間、純白の神気が爆発的に吹き荒れた。

彼女が構築する結界は、裏巫女の中でも最強に近い絶対の魔力。

展開された四角錐の強固な結界は、襲い来る黒い手を一瞬で弾き返した。

それだけではない。

千鶴が指先で護符を弾くと、結界の壁面が内側へと急速に収縮を始める。

「圧潰しなさい。」

攻防一体の結界は、巨大な万力となって陰魔女の肉体を全方位から押し潰していく。



挿絵(By みてみん)



骨の砕ける不気味な音が路地に響き渡り、陰魔女は血の混じった怨嗟の声をあげて悶絶した。

仕込み杖から引き抜かれた細身の刃が、結界に囚われた怪異の核を容赦なく貫く。

討伐は完璧だった。

しかし、その直後、千鶴の白い肌が劇的に変化する。

「くっ、あ、あ、はあ……っ!」

消滅した陰魔女から噴き出したドス黒い陰呪が、結界の隙間をすり抜け、千鶴の処女の肉体へと逆流した。

あまりの熱量に、彼女の端正な顔が快楽と苦痛で歪む。

脳を直接灼かれるような精神汚染と、下腹部を強烈に突き上げる強制発情の劇薬。

最強の結界師といえど、この過酷な宿命からは逃れられない。

膝がガクガクと震え、ドレスの奥の聖域が、じっとりと淫靡な蜜を滴らせ始めた。

「はあ、はあ……はやく、奥の院へ、戻らないと……。」

千鶴は仕込み杖にすがりつき、かろうじて身体を支えた。

今夜、この狂いそうな呪いの熱を吸い上げ、彼女を調伏し、救ってくれるのは誰なのか。

夜の調伏の儀式、主従が逆転する狂おしい結合の時間が、すぐそこに迫っていた。


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