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【百合ロマン小説】八咫烏の巫女  作者: 泉水遊馬
八咫烏神社

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7/13

第六話:白髪の諧調、孤高なる咀嚼

八咫烏神社の境内を、大正の冷たい夜風が吹き抜けていく。

「奥の院」から微かに漏れ聞こえるお蓮と千代の、命を繋ぎ止めるための狂おしい吐息を、詩織は一人、本殿の縁側で聞き流していた。

キセルから燻り出す紫煙が、彼女の顔を妖しく覆い隠す。

詩織の長い髪は、月光を反射して、まるで雪のように純白に輝いていた。

それは生まれ持った異能の証などではない。


裏巫女以外には倒せない強大な陰魔女を、その巨大な大太刀で幾度も屠ってきた「戦歴の傷痕」そのものだった。

お蓮が千代との肉体の結合によって呪いを浄化するのに対し、詩織はそれをすべて一人で処理する。


挿絵(By みてみん)



彼女が息を吐き出すたび、その雪白の髪の隙間から、ドス黒い陰呪の残滓がシュウシュウと音を立てて霧散していった。

『自己呪詛解放』。

体内に強制逆流してきた女たちの悍ましい愛憎、男を呪う淫毒を、詩織は自身の圧倒的な霊的器によって内側から強引に「噛み砕く」。

だが、神の領域に等しいその絶対的な排毒の術理は、彼女の肉体と生命力を内側から激しく蝕んでいた。


「ふぅ……。

今回の上級の毒は、ちっとばかし、骨が折れたねぇ……」


キセルをトントンと縁側に打ち付け、詩織は自嘲気味に微笑んだ。

自己呪詛解放を行う度、怨霊たちの凄まじい死のエネルギーと、詩織の生命力が体内で正面から衝突する。

その凄絶な霊的ストレスは、彼女の毛髪の細胞を根元から完全に焼き切り、色素を奪い去っていった。

戦いを重ね、自力で呪いを噛み砕く度に、彼女の髪はより一層白さを増し、巫女としての、そして人間としての寿命をガリガリと削り取っていく。


誰の手も借りず、誰の肌にも触れず、ただ孤独に己を削って帝都の理を守る。

それが、帝都最強と謳われる詩織の背負う十字架だった。

足音が一つ、静かに近づいてくる。

奥の院での過酷な排毒の作業を終え、汗を拭った見習い巫女の千代が、深い畏敬の念を込めた瞳で詩織を見つめていた。

千代には、詩織のその純白の髪が、どれほど重い命の灯火の輝きであるかが痛いほどに解っていた。


「詩織様……。

そのお髪……また、少し、白さが増してしまわれましたね……」


「何だい、千代。

お蓮の看病は終わったのかい。

あいつ、今夜もみっともなく泣き叫んでただろ?」


「お蓮様は、無事にお眠りになりました……。

ですが、詩織様……本当に、私では、詩織様の呪いを抜いて差し上げることは……できないのですか……?」


千代の悲痛な問いかけに、詩織はキセルを咥えたまま、いたずらっぽく笑って見せた。

彼女の自己呪詛解放は、あまりにも濃密で巨大な呪いを一瞬で噛み砕くため、千代の霊的許容量では受け止めきれず、交わった瞬間に千代の器が破裂して死に至る。

だからこそ、詩織は一人でこの白髪の呪縛を受け入れ続けなければならない。


「優しいねぇ、千代。

でも、あんたのその可愛い指は、お蓮のために取っておきな。

あたしのこのドス黒い中身をまともに喰らったら、あんたのその身体なんて、一瞬で消し飛んじまうよ」


詩織は立ち上がり、巨大な大太刀を再び肩に担ぎ直した。

月光に照らされたその白い髪が、哀しくも、圧倒的な強者の威厳を纏って夜風に揺れる。

男に肌を許さぬ処女の裏巫女たちが、ある者は女同士でぐずぐずに溶け合い、またある者は、たった一人で身を焦がしながら、大正の帝都の闇と戦い続けていた。


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